「22時以降にメールをするな」

 ところが3年前から始めた空手は、考え方がまったく違います。決められた時間に練習に行き、指導する山路先生のかけ声に合わせて、道場に通うメンバー全員が息を合わせて突きや蹴りを繰り出します。
 参加者は、上は60代、下は小学校低学年まで幅が広く、それぞれ体力も技術も違います。経験者もいれば、僕みたいな素人もいます。

 集団では、個人の自由が善かれ悪しかれ制限される面があります。それぞれが好き勝手にやっていては集団として成立しません。リーダーや先輩の指導に従うことは、当然でもあります。いつも一人行動に慣れていた僕にとって、最初は戸惑うことがたくさんありました。

 空手の稽古は常設の道場ではなく、屋外や公共の施設を使用して行われます。練習が終わると掃除や後片付けが始まるのですが、それらは、後輩が率先して行わなければなりません。
「先輩方の手を煩わせるなよ! モップを奪い取ってでも掃除しなさい」と先生に注意されるので、僕たち新人は練習が終わると同時に、片付けのために飛び出していきます。
 しかし、広い体育館だと、どうしても先輩の先回りをして片付けができないことがあります。一方の壁際の垂れ幕を片付けていると、反対側は先輩方がやってしまう。物理的に両立は難しいことなのですが、それでも「先輩にやらせてる場合じゃないだろう」と注意される。

 正直、「理不尽だなあ」と思うこともありますが、返事はもちろん「押忍」のひと言。内心、「先生に怒られるから、先輩方も何もしないでいてくれたらいいのに」─そんなことを考えたりもしました(もちろん先輩方だって、意地悪でやっているのではありません。どんなに強くても偉ぶることのない、気持ちのいい人ばかりです)。