生活保護支給日にはヤミ金担当者が車で送迎

 数週間の準備を経て申請を果たしたMには、後日、生活保護支給決定の通知が届くこととなった。

現金が入った「保護費支給袋」

 ケースワーカー訪問の事前連絡を受け、用意した生魚とラーメンの食べ残しで演出した生ゴミの臭いにはM自身もまいってしまったが、訪れたケースワーカーは3分と経たずに部屋から出て行った。

 現在、毎月の支給日になると、Kによる送迎で役所の窓口に生活保護を受け取りに行く。そして、12万ほどの支給額のうち、半額を渡したところでKは帰っていくのだ。Mの手元には残額と、役所の窓口で配られる1ヵ月分の銭湯入浴券が握られている。

「あと、保護証明書を見せれば菓子パンとかリッツとかももらえる。もらった金を使い切っちゃった人用のね。ただ、ビニール袋に入った炊き込みご飯とかスナック菓子も置いてあるんだけど、あれはさすがにもらえないな。人間の尊厳の問題っていうかね」

 Mは「カネがない生活ってストレスたまるのよ」と言いながら、競馬・競輪、酒代として1週間と経たぬうちに残額を使い切ると、まず、残りの銭湯入浴券を中古チケット屋に転売する。そして、そのカネも尽きるとKに電話をかける。

「カネはもうあまり借りれないから、仕事をもらってる。工事の作業場とかの力仕事もあれば、パチンコの打ち子もある。あと、飲み屋のボーイとか、病院で『眠れないんです』って言って睡眠薬もらってきたりとか。それは、一緒にKさんにお世話になってる人に聞いたんだけどね」

 受給者に同じアパートが斡旋される2つの理由

 実は、Mが住むアパートには、同じヤミ金業者の債務者であり、生活保護の受給者が住んでいる。そのアパートが選ばれる理由は大きく2つある。

 ひとつは、生活保護受給を促すのに適当な家賃と間取りであること。当然、高級物件であれば「もっと安いところに住むように」と役所から言われてしまう。また、ヤミ金業者が生活保護の「原価」となる家賃を抑えるために、2段ベッドを詰め込んだ部屋に集団で生活保護受給者を住まわせる時期もあったが、今では認められなくなっている。

 もうひとつは、そのマンションが比較的高級住宅が立ち並ぶ地域にあるということだ。低所得者が住む地域では、近隣の行政機関が大量の生活保護申請を処理することとなり、相対的に見て環境が良好と判断された場合、受給が認められないことも多い。しかし、この地域であれば、そもそも申請者数が限られているため、競争も少なく、安定的に生活保護受給が認められ続けるというわけだ。

 Kはこのアパート含めて、斡旋したいくつかの住居を回りながら「客」を車に乗せていき、役所まで連れて行く。そして、それぞれの受給額の半額を回収して帰る。残った受給者たちは、喫茶店に立ち寄って世間話をし、互いの「仕事」の状況などの情報交換を行ない、場合によっては給料日を迎えたサラリーマンのごとく飲みに行ったりするケースもあるという。