iPhoneアプリ「hinadan」(ひなだん)の開発者である若宮正子さんは、米アップルの世界開発者会議「WWDC」に招かれ、ティム・クックCEOにハグされて、「世界最高齢プログラマー」として一躍有名となった。84歳になった現在も、シニアのデジタル活用を伝導すべく、精力的に国内外を飛び回っている。その若宮さんがこの夏、電子政府で有名なエストニアを初めて訪ねたという。エストニアの「e-Residency」(イーレジデンシー、電子居住権)を取得して見えた、日本の課題とは何か。(本記事は10月1日に都内で行われたSetGoローンチイベントにおける講演を再構成した。構成・写真:小島健志)

世界最高齢プログラマーが、“電子国家”エストニアでシニア100人に聞いてわかったこと

なぜ84歳の私が電子政府の国エストニアに行ったのか

 今日は、なぜ私がエストニアに行くことになったのかについて、お話ししたいと思います。エストニアは電子政府が進んだ国として有名なのですよね。

 私もシニアのデジタル活用について、いろいろとお話をしてきたので、エストニアについては以前から詳しく知りたいと思っていました。知り合いに「ねえ、どうしてエストニアは電子政府ができたの」と聞きました。すると、「それはね、あそこは頭がいい人がたくさんいて、ユニコーン企業(注:時価総額が10億ドル以上のベンチャー企業)をつくったからだよ」と教えてくださいました。

 エストニアは、確かにスカイプ(Skype)といったIT企業をたくさん輩出してきました。でもね、ユニコーン企業があっても電子政府はできないなと思いました。なぜなら、電子政府というのは、国民への行政サービスを電子化するということですから、国民の合意が得られなければできません。ですが、世界中共通しているのは、おじいちゃん、おばあちゃんがどうもITが嫌いだと言って、そっぽを向いているという状況です

 それなのにエストニアは電子政府としてうまくいっているなんて。一体、エストニアのお年寄りはどうしているのだろう。シニアはどのようにIT社会で暮らしているのだろうかと、気になっていました

 そのとき、『つまらなくない未来』をたまたま読んでね、これはもうエストニアに行かないといけないと思ったのです。だけど、英語もろくすっぽできない、ましてやエストニア語のエの字もできない日本人が行っても、答えてくれないと思っていました。

 そうしたら(会場に来ている何人かを指して)お友達ができまして、(孫泰蔵氏のVIVITAが展開する)エストニアのVIVISTOPというところに行けば、日本やエストニアの方々に会えると聞きました。そうした縁がつながり、この夏、5泊6日でエストニアに行ったんです。私は、(エクセルを使って芸術作品を作る)「エクセルアート」の考案者、創始者なものですから、それでうちわを作るというワークショップを開きました。現地のおばあちゃんや子どもたちに集まっていただければ、お友達になれると思ったからです。

 私は2年前に作ったiPhoneアプリ「hinnadan(ひなだん)」で、にわかに有名人になってしまいました(注:米アップルの開発者会議に招かれ、ティム・クックCEOとハグし、「世界最高齢プログラマー」と称される)。まさかと思いましたが、エストニアでも私のことを知っている人が何人もいらっしゃいました。30人募集したのに100人も来たと聞いて。結局、ワークショップを2回、トークショーも開くことになり、そこでたくさんの知り合いができました。

 その中の1人に、「(エストニアの電子政府を体感できる政府運営の)ショールームには行ったのか」と聞かれて、まだですと返しました。「それならば、すぐに行こう」と連れていってくださったんです。