それだけではなく、「ミスター半導体」と称される牧本次生氏が著した単行本『IT立国アルメニア 中東・コーカサスに輝くシリコンバレー』も、私にプレゼントしてくれた。

 牧本氏はソニー半導体、日立の社長などを務めてきた人で、「日本の半導体業界の第一人者」と称されているが、2013年、ポゴシャン氏の推薦で、その功績に対してアルメニアの栄誉ある「グローバルIT賞」が贈られた。その表彰式のためにアルメニアを初めて訪れた牧本氏は、アルメニアのIT技術が急速に発達していたことに驚き、この事実を日本に紹介したいと思った。それは、『IT立国アルメニア』という本になった。

東京からなくなった
アルメニア料理店

 海外に居住する人口が本国に住む人口よりはるかに多いのも、華僑を量産してきた中国とかなり似通ったところがある。アルメニアの人口はわずか300万ほどだが、世界各地には800万人ものアルメニア人が移住している。

 一番多いのがロシアで、260万人のアルメニア人が住んでいる。二番目に多いのがアメリカだ。中国のシルクロード周辺や黒竜江省の省都ハルビン、シンガポールには、アルメニア人が集まって住んでいる集落がある。「あなたがアルメニア料理を体験したイランには、多くのアルメニア人が住んでいる。両国の関係もよい」とポゴシャン氏が目を細めた。

 ポゴシャン氏が残念がっている分野もある。「東京には以前、アルメニア料理を楽しめるレストランが1軒あったが、今はもうない。またできるといいね」と言う。

「年が明けたら、また機会を見て、アルメニア産のワインを飲みに来てください」とポゴシャン氏が固く手を握ってくれた。人間関係の点と線は、こうして結ばれた思いがした。東京の町は、すでに師走の夕暮れとなっていた。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)