日本の「お役所仕事」の問題点
「お役所仕事」という言葉は、役人の生産性や市民の利便性を顧みずに行われる行政事務を批判して使われる。
手続きのために大量の紙の書類を提出し、いくつもの役所の部署を歩き回り、やっと手続きが終わってもその結果が返ってくるのは数週間後…といった経験をした人も多いかもしれない。
例えば、引っ越しの際には住民票の変更のために、元の住所の役所と転居先の役所を訪問しなければならない。さらに、印鑑登録の変更、免許証の住所変更、年金・健康保険の住所変更など、各公的サービスの住所変更届をバラバラに行わなければならず、それぞれに同じような書面を作成する必要がある。しかもその手続き内容はすぐに反映されないものも多い。これらの手続きに要した時間を積み上げれば、かなりのものになるだろう。
一方で、最近では官僚の残業の実態がアンケートで明らかになるなど、役所で働く人たちの働き方にも限界がきていることが報道されている。行政組織の中で決められた手続きを遂行することが役人たちの生産性を下げ、彼らを疲弊させてしまっているということだ。行政でも働き方改革が叫ばれ業務時間の短縮が進められているが、時間当たりの生産性を高めるツールがなければ、隠れた残業が増えるだけで何も変わらない。
このように、現状の行政手続きの仕組みは市民に不満をもたらしているだけでなく、現場の役人たちをも苦しめていている。「お役所仕事」で、官民双方の生産性が下がっているというわけだ。
データを見ても、その課題は明らかだ。世界銀行が発表した、ビジネスのしやすさのランキングであるDoing Business 2019では、日本はOECD平均を下回り、39位となっている。「起業のしやすさ」「税金の支払い」などにおいて、手続きが煩雑であることが主な要因だ。ちなみに、お隣の韓国は5位である※1 。
行政手続きの複雑さを解き明かし、その問題点を改善できたなら、多くの非生産的な「お役所仕事」は減り、市民も働く役人たちも、より豊かな生活を送れるのではないか――。
そのための手段の1つがデジタル化だ。マッキンゼーのレポートによれば、既存技術による「行政デジタル化」は、世界全体で1兆ドルの付加価値を生むと推計されている※2 。では、行政手続きの何を改善すれば、デジタル化が実現するのだろうか。
※1:DOING BUSINESS 2019
※2:Transforming government through digitization (McKinsey&Company)