「即戦力のスーパー・ルーキー」
は本当にいるのか?

 「いや、本当に多いですよね」。ある人材関連企業の若いマネジャーも言います。

 「石川遼とか、ハンカチ王子とか。ダルビッシュみたいな人材が欲しい、と言った人事担当者もいましたよ。それも真顔で」

 念のために、ある大企業のベテラン人事マンに聞いてみました。

 「わが社が求める人材像は石川遼、っていう採用担当者が多いんですが、Kさんは聞いたことありますか?」

 Kさんは笑ってこう答えました。

 「聞いたことありますよ。そんな“ないものねだり”してもしょうがないですけどね」

 「Kさん自身は、そういうことを社内や若手に言ってますか?」

 「え?言うわけないじゃないですか。若手がかわいそうでしょ、そんなことを言ったら」

 Kさんの説明の意味するところは、こういうことです。

 石川遼は特別な才能を持った若者で、それを理想像としてしまったら、どんな若手も太刀打ちできるはずがない。たいていの若手はダメに見えてしまう。理想が高くなるほど、周囲の期待が過剰になっていき、若手は重圧に押しつぶされかねないのではないか。
 
 石川遼とかハンカチ王子、ダルビッシュという比喩が意味するのは、即戦力のスーパー・ルーキーということでしょうが、そんな特別な人材がそこらにいるはずがない、というのは自明でしょう。

 そんなことは採用担当者もわかっていることです。なのに「わが社が求める人材像は石川遼」と言ってしまうのは、ひとつには「経営トップの妄想」が作用しているのではないか、と私は推測しています。