「暗号は国の命脈」
米国依存の脱却に四半世紀取り組む

 デジタル人民元は米国のドル覇権に対抗するという点で、中国にとって極めて重要な国家プロジェクトだ。ただ、暗号技術の用途としては一例にすぎない。今回の新法施行が本質的に狙っているのは、デジタル時代のありとあらゆる技術と産業を支える暗号において、他国に依存しない圧倒的な能力を獲得することだ。

「暗号はわが党と国家にとっての命脈であり、命門(生命活動の源泉を意味する東洋医学の用語)でもある」「暗号法を徹底的に、着実に実行し、中華民族の偉大な復興という中国の夢に大きな貢献を果たす」

 国家暗号管理局の李兆宗局長は暗号法成立直後に、共産党機関紙の「人民日報」への寄稿でこう述べている。こういった表現には、中国政府が暗号技術を一貫して重視し、その獲得に長期的に取り組んできたことがにじみ出ている。

 インターネットによる情報通信時代の到来を受け、中国は1990年代中頃から、近代的な暗号技術の獲得に腰を据えて取り組んできた。

 99年には「商用暗号管理条例」を制定。暗号技術を使った産業用のハイテク製品の研究開発や生産販売を、政府の監督下に置いた。外資企業に対しては、海外製の暗号化ソフトウエアを搭載したパソコンや事務機器を持ち込む際には、販売目的ではなく社内用途であっても、当局の許可を得ることを義務付けてきた。

 05年には党中央委員会直轄組織として国家暗号管理局を設立。同局の下には中国暗号学会があるが、これは暗号技術の開発と人材育成を担う官製研究組織だ。リーマンショック後、中国の台頭が顕著になった10年からはほぼ毎年、暗号関連のさまざまな法令や技術規格を発表している。

 デジタル人民元が昨年、米フェイスブックによるデジタル通貨リブラの発行計画と関連して注目されたせいで、暗号法も一連の急ピッチな制定と読み解かれがちだ。だが実際には、数年来の周到な準備による法制化である。