直接会話した参加者たちからは、「もしも病気になったら」という不安が、冗談交じりの明るい声ながら数多く聞かれた。アンケートの自由記述欄にも、「虫歯ができたけれど、歯医者に行けない」という切実な声が記されている。それでも、生活保護を利用することに躊躇する参加者が多い。稲葉さんは、「難しさを改めて感じました」と率直に語る。

「来られた方の約半数は、もう来られた時点で、何らかの支援がないと暮らしていけない方です。今日泊まる場所がなかったり、手持ちのお金がちょうど尽きてしまったところだったり。もちろん、生活相談をお受けする中で、生活保護の話もしています。でも『年末年始だけ、なんとかなればいいから』という方が多いんです。収入的には困窮していらっしゃるわけですが、『働きながら生活保護を受けることができます』とお話しても、生活保護への抵抗感が強いんです」(稲葉さん)

ゼロからではない
日本には生活保護がある

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「年越し大人食堂」の開催で稲葉さんと協働したNPO法人POSSE事務局長の渡辺寛人さんは、生活保護への抵抗感について、次のように語る。

「もちろん最終的には、ご本人の判断に委ねることが原則です。しかし、生活保護を使うことの必要性や現在使える選択肢をしっかりと説明・説得することが大事だと思っています。参加された方の中には、生活保護に対して『使いたくない』『自分は働いているから使えない』とおっしゃる方も多かったのですが、スタッフと話しているうちに『使ってもいいんだ』と思えるようになった方もいました。

 今、実質的には『生活保護か、支援なしで耐えるか』の二択になってしまっているので、生活保護の家賃補助や医療費だけでも、切り離して個別に利用できるようになれば、かなり状況が変わると思います」(渡辺さん)

 日本の社会保障について、足りないものを数え上げるとキリがない。あまりにも不足や“穴”が大きすぎる。しかしながら、現存する制度をベースに、より使いやすく、より多くの人々が幸せに生きられるように磨き上げられる可能性は、多分に残されているだろう。

 そして日本は、ゼロから出発するわけではない。日本の私たちには、生活保護がある。

(フリーランス・ライター みわよしこ)