欧州情勢をめぐり、市場に“楽観ムード”が広がっている。きっかけは7月26日、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の発言だった。

「ユーロ圏を崩壊から守るためにできることを、責務の範囲内で何でもする用意がある」

 市場はこれを好感し、前々日にユーロ導入以来最高の7.6%強に跳ね上がっていたスペインの10年国債の利回りは、7%を割り込む水準まで急低下した。

 ドラギ総裁がこのような大胆な発言に追い込まれた背景には、スペイン政府に付きまとう二つの格下げリスクがある。それらが同国の国債利回りを急騰させ、欧州危機を深刻にしているのだ。

 一つ目の格下げリスクの鍵を握るのは、カナダの格付け会社であるDBRSである。日本では無登録のためあまり知られていないが、ECBが同社の格付けを適格担保の基準として使用している。

 ECBはDBRSの他に、米格付け会社のスタンダード&プアーズ、ムーディーズ、およびフィッチの合計4社を採用しており、そのうち最も高い格付けを適格担保基準としている。米系3社は既にスペイン国債にトリプルBを付けているが、DBRSだけはまだA格を維持している。

 ところがそのDBRSも、8月下旬までに格下げすることを示唆。これが3段階以上の格下げとなれば、スペイン国債の格付けは4社すべてでトリプルBに転落する。そうなるとスペイン政府の資金調達がさらに厳しくなるばかりか、銀行がスペイン国債を担保にECBから調達できる資金額も5%減少、銀行の流動性も逼迫しかねない。

 二つ目の格下げリスクは、ムーディーズが9月中をめどにその可能性を示唆していること。1段階の格下げで「投資適格」から「投資不適格」に陥るため、主要な国債インデックスからスペイン国債が除外され、「投資家によるスペイン国債の投げ売りを招く可能性もある」(岸田英樹・野村證券シニアエコノミスト)。