欧州危機は
対岸の火事ではない
欧州で起きている財政危機から、私たちは多くの教訓を得ることができる。欧州危機を対岸の火事として見るのではなく、日本に置き換えて考える必要があるのだ。
財政危機はいったん表面化すれば、その波及のスピードは非常に速い。国債の価格の暴落が起きれば、政府でもそれを止めることは難しい。国債価格が暴落することは、金融システムが破壊されることでもある。財政危機は金融危機でもある。
いったん危機が表面化すれば、財政問題は深刻な政治問題となる。財政を健全化させるためには、増税や大胆な歳出カットが必要だ。しかし、財政健全化策で国民を説得させるのは容易ではない。野党は財政再建策を批判する。国家財政がさらに厳しくなったとしても、そして国民経済が深刻な危機に陥っても、国民を説得することは容易ではない。
日本の財政は表面的には安定している。政府債務はたしかに多いが、国債は非常に低い金利(高い価格)で取引されている。日本の潤沢な貯蓄が、国債を安定的に購入しているからだ。財政運営には何の困難もないように見える。
しかし、ギリシャ財政も少し前までは安定していたのだ。最近でこそ30%を超えるような高い金利を付けているギリシャ国債(10年物国債の長期金利)であるが、2010年の年初までは5%前後の水準をキープしていた。ドイツ国債の利回りとそれほど変わらない水準であったのだ。
深刻な国債価格の下落に悩むスペインも、2008年のリーマンショック前は、財政収支は黒字であった。リーマンショック後、金融危機から財政収支が急速に悪化し、それが国債価格の下落を引き起こす結果となった。そして国債価格の下落(国債金利の上昇)によって、財政を維持することが不可能になりつつある。欧州の他の国からの支援なしには、財政を維持することは不可能な状況である。