キーエンスの3つの強み

 原価に比べて高い売値で販売できる理由の1つ目は、商品の値決め方法にあります。

 普通、商品を作るのに要する原価を積み上げ、そこに一定の利益を上乗せして売値を決めますが、キーエンスは違います。「顧客が支払ってもいいと考える金額」を把握し、それに応じて売値を決めているのです。

 例えば、製造過程で不良品が一定の割合で出て困っている工場があるとします。仮に「不良品1個が出たら100万円の損失」となる場合、毎年10個の不良品が発生するならば、5年で5000万円の損失が出ます。

 キーエンスの検査装置を導入して不良品を未然に防げるならば、顧客にとって「払ってもいい上限金額」は5000万円でしょう。もし、検査装置の売値が4000万円であれば、喜んで購入するでしょう。たとえ、その商品の原価が800万円だとしてもです。

 2つ目は、徹底した顧客ニーズの収集です。

 同様の検査装置を他社でも作っていたら、結局はその会社との価格競争に巻き込まれることになります。そうならないように、キーエンスは顧客ニーズを徹底的にヒアリングし、顧客の真の困りごとを膨大に集め、データベース化して商品開発につなげています。

 その結果、今までにないオンリーワンの商品が生まれています。類似商品が他にないので、顧客としては、高くてもキーエンスしかないのです。

 顧客から頼まれたものだけを作るのではなく、現場のことを理解した上で、顕在化していないニーズもとらえて顧客に提案する「コンサルティング営業」がキーエンスの売りです。

 さらに、同じような困りごとを抱えている企業へ横展開して営業することで、収益力はますます増大します。横展開は国内企業にとどまらず、海外企業にも広げており、海外売上高比率は現在50%を超えています。

 3つ目は、顧客への直接販売体制です。

 普通は販売チャネルを増やすために、代理店を使って商品を販売するものです。しかしキーエンスは、代理店を使わずに、最終顧客に直接販売しています。そのため、代理店に中間マージンをとられることなく、利益を丸ごと自社のものにすることができるのです。しかも、顧客とダイレクトに接する機会が増えるため、顧客ニーズの収集に役立つというメリットもあります。

(本原稿は『経営や会計のことはよくわかりませんが、儲かっている会社を教えてください!』第10章からの抜粋です)