アップルを上回る利益率の秘密

 その内訳が書いてあるのがキーエンスの「製造原価明細書」です。下記の画像を見てください。

キーエンスはなぜ高年収なのか? 財務諸表で読み解く「3つの強み」

 キーエンス単体の製造原価明細書は、2019年3月期の有価証券報告書の中で開示されています。これを見ると、製造原価全体の73.2%が材料費で占められており、工場に勤務する社員の人件費を意味する労務費はわずか3.1%にすぎません。機械など固定資産の減価償却費はさらに小さい金額です。

 その代わり、外注加工費が15.4%を占めます。製造している製品や工場のオートメーション化の度合いによって差があるため、一般的な構成比というものはありません。しかし、少なくとも労務費が10%を下回っていることから、キーエンスは「ファブレス経営」を行っていると想像できます。

 ファブレス経営とは、自社で工場を持たずに、外部に製造を委託する方式のことです。日本ではユニクロを展開するファーストリテイリング、米国ではiPhoneのアップルが有名です。しかし、両社の粗利益率を見てみると、ファーストリテイリングは約50%、アップルは約40%と、キーエンスの80.2%には遠く及びません。

 では、キーエンスは下請け企業に不当に低い報酬で商品を作らせているのでしょうか。いや、いくら金額をたたいたとしても、ここまで原価を圧縮することはできないでしょう。

 つまり「単にファブレス経営だから」という理由だけでは、キーエンスの高粗利益率の説明はつきません。粗利益は売上高から原価を差し引いたものです。したがって、もうひとつの要素である売上高に理由があるはずです。理由は3つあります。