球団顧問に就任した2013シーズン時点のマリーンズは、前述したように慢性的な赤字経営から脱却できず、人気面でも大苦戦を強いられていた。周囲に「火中の栗を拾うような仕事でもいい」と打ち明けていた山室氏にはむしろ魅力的に映り、54歳になる直前での転職を決意した。

 それから6年。このオフのマリーンズは、利益を積極的に選手の強化へ投資している。フリーエージェント(FA)宣言した美馬学投手(前東北楽天ゴールデンイーグルス)、福田秀平外野手(前福岡ソフトバンクホークス)を獲得。ドラフト会議では高校生最速の163km右腕、佐々木朗希(大船渡)を1位指名し、楽天、北海道日本ハムファイターズ、埼玉西武ライオンズとの競合の末に引き当てた。

 しかし、躍進が期待されるマリーンズの球団社長退任を、昨年11月下旬に突然表明して取締役へ異動。続いてサッカー界へ、しかも縁もゆかりもないエスパルスの代表取締役社長へ転身し、再び周囲を驚かせた山室氏は「野球に関してはある程度、やり尽くした感がある」と語ったことがある。

「やり尽くした、とはちょっと言い過ぎですけどね。本当にやり尽くしたとなると優勝しかないので。ただ、私が直接手を下せるという意味で、あれだけの潤沢な強化資金のもとで補強して、あとは監督や選手をはじめとする現場が最大限のパフォーマンスを発揮すれば、という段階になったので」

エスパルスへの参画はほぼ即決
「潜在能力を生かし切れていない」

 球団社長退任を冗談まじりに「FA宣言しました」と表現していた山室氏の下へは、マリーンズで発揮された手腕を見込まれてさまざまな業界からオファーが届いた。スポーツ界からもエスパルスとは別のJクラブや、プロ化を目指しているラグビー界のあるチームからのそれも含まれていた。

「スポーツ業界にはこだわっていませんでしたが、経験を最も生かせるという意味でも、自分を一番評価していただいたという点でも、ほぼ即決に近かったですね。新しいチャレンジをしたいと考えていた中で、サッカーどころのエスパルスならば非常に面白い、と思えたことが一番大きかったですね」

 Jリーグから公表されている最新の経営情報となる2018年度決算で、おりしもエスパルスは当期純利益でマイナス2億5600万円と3期ぶりに赤字に転じている。今回も火中の栗を拾った形なのでしょうか、と問われた山室社長は「昔からそういう性格なんですよね」と苦笑する。