物質ではなく情報を運ぶ受容体
ドアの働きをするのは膜に刺さったタンパク質で、膜タンパク質と呼ばれる。膜タンパク質には、いろいろなものがあるが、その1つにポンプがある。すべての生物は、エネルギー源としてアデノシン三リン酸(ATP)という分子を使っている。ポンプはATPと結合してエネルギーをもらい、そのエネルギーを使って強制的にイオンを輸送する(能動輸送という)。
たとえばナトリウムポンプ(ナトリウム−カリウムATPアーゼともいう)という膜タンパク質は、ATP一分子のエネルギーを使って、ナトリウムイオン三分子を細胞内から細胞外へ輸送し、カリウムイオン二分子を細胞外から細胞内へ輸送する。
また、チャネルという膜タンパク質もある。チャネルはATPと結合しないので、エネルギーは使わない。蓋ふたを閉じたときはイオンを通さないが、蓋を開けたときはイオンのただの通り道になる。イオンはどちら向きにも流れることができるが、実際にはチャネルの外側の環境によって、流れる向きが決まる。
つまり、イオン濃度の高い方から低い方へと流れることになる(受動輸送という)。ナトリウムイオンを通すナトリウムチャネルやカリウムイオンを通すカリウムチャネルなどがある。
さらに、物質ではなく情報を運ぶ、受容体(レセプターともいう)と呼ばれる膜タンパク質もある。まず、受容体の細胞外に出ている部分に、物質が結合する。この、受容体に結合する物質をリガンドという。リガンドが結合した受容体は、構造が変化する。その結果、受容体の細胞内に出ている部分も、構造が変化する。その構造変化がシグナルとなって、何らかの情報を細胞内に伝えるのである。
たとえば、EGFR(上皮成長因子受容体)という受容体がある。EGF(上皮成長因子)というタンパク質のリガンドが、EGFRの細胞外に出ている部分に結合すると、反対側のEGFRの細胞内に出ている部分に、リン酸基(H2PO4−)が付加されてリン酸化される。
これが最初のシグナルとなり、それから細胞内で順々にシグナルが伝達され、最終的には核内にシグナルが伝えられて、細胞分裂が起きるのである。