サブタイトルまで入れると、両展覧会の正式な名称はこうなる。「クリムト展:ウィーンと日本1900」(東京都美術館)、そして「ウィーン・モダン:クリムト、シーレ世紀末への道」(国立新美術館)。前者は朝日新聞社が、後者は読売新聞社が主催者に社名を連ねている。見る前は、両展覧会ともにグスタフ・クリムトを中心にした「世紀末ウィーン」がテーマで、展示の発想はかなりの部分でダブっているのだろうと思った。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
退廃的でめまいがするほど魅力的!
東京都美術館の「クリムト展」
キーワードはどちらも「ウィーン」と「クリムト」でよく似ているが、「クリムト展」はクリムトの人生と作品を時間順に展示したもので、クリムトの画業の大半を知ることができる評伝のような展示だ。もちろん、クリムト周辺の画家の作品や後述するウィーン分離派の展示も多い。
一方の「ウィーン・モダン展」は、サブタイトルにあるクリムトとエゴン・シーレは登場人物のごく一部にすぎない。「世紀末ウィーン」の都市文化、美術、建築、デザインなどを多角的に展示・構成したものだった。
まず、上野の東京都美術館へ「クリムト展」を見に行ってみよう。平日の午後だったが入場者は多い。順路をたどっていると、あちこちで渋滞した。
サブタイトルの「ウィーンと日本1900」とは、1900年に開催された「第6回ウィーン分離派展」が、日本美術をモチーフにしていることに由来している。展示ではちょうど順路の中盤だ。掛け軸のようなこの展覧会のポスターは浮世絵をほうふつとさせる。
しかし、なによりクリムトの金箔を多用した華やかで退廃的で、そしてめまいがするほど魅力的な女性の肖像や男女の抱擁の絵が素晴らしい。たとえば「ユディトⅠ」(1901年)のような文学的な肖像画、「オイゲニア・プリマフェージの肖像」(1914年)のような華やかな肖像画の実物を肉眼で見られる幸福を味わうことができる。これぞ眼福なり。
また、大規模な壁画スタイルの「ベートーヴェン・フリーズ」(複製)が実物大で展示されているコーナーなど、思わず長時間立ち止まってしまう。このように「クリムト展」はあくまでもクリムトの全体像が主題の展覧会だ。
こんなに大量のクリムトを見たのは初めてで、とくに膨大なデッサンには驚いた。大半はヌードだが、性器の写実的な描写がデッサンの中心にある。クリムトのデッサンは2500点残されているそうだが、モデルのちょっとした微細な動きをものすごい速度で描きとめていったのだそうだ。
クリムト自身の肖像写真を見ると、青年期は精悍なイケメンだが、中年では禿げたオヤジ顔になっている。しかし富裕層の女性に、たいそうもてたようだ。彼の描く肖像画があまりにも魅力的だったからだろう。誰だってクリムトに描いてもらいたいと思うに違いない。