日産自動車の決算が11年ぶりの最終赤字に転落した。実は日産社内では、2000億円規模の損失を計上することで構造改革に踏み切るプランも検討されていた。だが、内田誠・日産社長の覚悟が決まらず「中途半端な赤字決算」になってしまった。先送りのツケは大きく、内田新体制の船出は厳しいものになりそうだ。特集「日産離婚」の#3では、業績悪化の底が見えない日産の構造的課題をひもといた。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
新米社長の躊躇が仇になる
通期見通し「黒字」維持の弊害
「2020年3月期の決算は捨てるべきだ。大切なのは来年度(21年3月期)なのだから。大きな赤字を出すことにはなるが、緊急事態を乗り切るにはこのプランしかない。早く決めないともう時間がなくなってしまう」
昨年12月、ある日産自動車幹部は、内田誠社長に大きな決断を迫っていた。20年3月期の第3四半期(10〜12月。3Q)決算で、構造改革費用として巨額の損失を計上し、会社の膿を出し切るべきなのではないかという提案をしていたのだ。
まだ決算が固まる前のタイミングだったが、世界の主要拠点から本社へ上がってくる「自動車販売台数の激減」の数字は日増しに深刻になっていた。3Qが赤字に転落することは目に見えていたのだ。
“最盛期”のカルロス・ゴーン(元日産会長)氏を知るベテランの日産幹部の心中もざわついていた。「日産リバイバルプラン(NRP。1999年)」の期間中だった2000年度、ゴーン氏が総額7111億円もの特別損失を計上し、構造改革と成長投資を両輪で進めた「V字回復」は、日本の製造業史に残る語り草になっている。
同幹部は「ゴーン氏は潤沢な準備金を用意して、絶対に失敗しない計画にしていた」と振り返り、「今回も当時くらいの危機感を持って踏み込んだ構造改革を断行すべきだ」と続けた。
しかし、である。昨年12月に就任した“新米”の内田社長は、「巨額赤字決算」をつくることに最初から腰が引けていたらしい。12月に発足した新たな「トロイカ体制」のうち、ナンバー2のアシュワニ・グプタ・最高執行責任者(COO)もハードランディングの再建には消極的で、賛成していたのは関潤・元副COOだけだったようだ。
今年1月に社長含みで日本電産に移籍した関氏は、「パフォーマンス・リカバリー・プロジェクト(業務改善プロジェクト。PRP)の責任者を直前まで務めていたことから、将来にわたる「経営再建の手順」を見通せていたのかもしれない。
“決断”のタイムリミットだった2月13日、日産は20年3月期3Q決算(9カ月累計)を発表したのだが、結果は散々だった。営業利益は前年同月比82.7%減の543億円、当期純利益は同87.6%減の393億円という低迷ぶりである。
リーマンショックが到来して以来、11年ぶりの赤字転落――。そのセンセーショナルな響きから、20年3月期3Q決算(10~12月の3カ月)の当期純損失が260億円の赤字となったことが報道陣の注目を集めた。
だが実は、今回の決算のポイントは赤字転落にあるわけではない。一番重要なポイントは、内田社長ら日産経営陣が意志を持って、20年3月期の通期予想の営業利益と当期純利益の黒字を確保したことにある。昨年11月の第2四半期決算に続き、今回も下方修正をしているものの、「営業利益850億円、当期純利益650億円」と黒字で着地させるつもりなのだ。
この経営判断こそ、来年度(21年3月期)以降の日産の再建を阻む致命傷となってしまうかもしれない。
どういうことか。