愛と書かずに愛を伝える
愛と無関係な人はいない。
恋愛だけではない。親子愛も夫婦愛もあるだろうし、友情にだって愛はあるだろう。
これまでに愛を感じた経験、映画やドラマで見聞きしたエピソード、あなたの中にきっとある。
特別な技術が必要なわけではない。まずは、その愛を感じた何かを思い出して、10分で、A4の白紙に1本書いてみようと伝えている。
それでも中には手が止まってしまう人がいる。
僕は机をまわりながら、一人ひとりの書く背中を押したくて声を掛ける。
照れなくていい。恥ずかしがらなくていい。最初からうまく書ける人なんていない。
まずは何かを書くことではじまるんです、と。
その言葉は全部、かつての自分が言ってほしかったことだ。
これまで僕はこんな訳し方をする人に出会ってきた。
「半分こにしようか」
「卒業したから、生徒じゃないです」
「全部あなたに出会うためだったんだ」
「今、会えない?」
「あなたのこと、もっと知りたいんですけど」
「小さいころよく遊んでいた場所、見てみたい」
そこには情景や、温かい気持ち、浮かび上がってくる思いがある。
「愛する」とあえて書かずに伝えることで、キャッチフレーズという言葉通り、僕たちの心はどうしようもなくつかまれてしまう。
書かずに伝えること。
一見矛盾しているようにも感じるこのことこそ、心をつかむ言葉の秘密なのではないか。僕は決して大袈裟ではなくそう思っている。