7月1日、国際標準化機構(ISO)は建材中にアスベストが含まれているかどうかを調べる定性分析の国際規格(ISO22262-1)を発行した。これにより、日本がISOに提案してきた日本工業規格(JIS)による分析方式は正式に落選したことになる。その解釈をめぐって行政や専門家の間で奇妙な議論が起こっている。その内容を数回にわたって紹介するとともに、今回のJIS落選の持つ本当の意味について明らかにする。

日本型落選の重大さ

「なんで今頃ISOの取材なんですか? だって、JISの導入が否決されたのは昨年じゃないですか」

 最初に問い合わせた経済産業省の担当者から不思議そうに問われた。

 たしかに日本が提案した分析法がISOの委員会で蹴られたのは1年近く前の2011年9月のことである。経産省や同省下の日本工業標準調査会(JISC)は、落選の事実やその間の経緯について、いっさい公表してこなかった。また、関係者から議事録などの資料の閲覧・提供を求められても無視してきたとの話は聞いていた。

 それだけであれば、相変わらずのお役所の隠ぺい体質に呆れただけだったろう。そもそも単純に日本型の規格が国際的に認められなかった、というだけならよくある国際標準をめぐる勢力争いの1つでしかない。それ以上、興味を持つことはなかったはずだ。

 だが、筆者が1年近く経った今になって、改めて取材する気になったのはISO発行後の行政や一部の専門家による奇妙な発言からだった。7月に日本作業環境測定協会が開催したアスベストの分析についての講習会の参加者から、「国の関係者がISO法について嘘を広めている」と聞かされ、不審に思ったことがきっかけだった。

 そして調べていくうちに、昨年のできごとは、単純な国際規格からの落選にとどまらない重要な意味を持つことを関係者から知らされた。

 それは、ISO法を制定する議論の中で、日本型のアスベスト分析方法が「不正確」として排除されたというのである。

 もしこれが事実であれば、分析法の欠陥により多数の分析ミスが起こっていたばかりか、現在も日々誤った分析結果が生み出されている可能性がある。その結果、何が起こるのか。アスベスト調査や分析に詳しい、NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう警告する。

「建材にアスベストが含まれているのに『なし』と判断して、見落としてしまえば、本来必要な対策なしに建物の解体工事などが行われてアスベストが飛散し、労働者や住民、近隣を通る歩行者が曝露します。逆に実際にはアスベストが入ってないのに『あり』と分析すれば、不要なアスベスト工事が行われることになって建物所有者などが余計なコストを負担せねばならず、損害を被ります」