専業主婦がいまだに日本の社会構造の「前提」になっている不合理Photo:PIXTA

あなたの仕事に効くビジネス書の書評を集めた「仕事の本棚」。ビジネスリーダーが読むべき一冊を厳選してお届けします。今回は『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』(中野円佳著)です。(評者・皆本 類=情報工場エディター)

「専業主婦前提社会」とは?

専業主婦がいまだに日本の社会構造の「前提」になっている不合理『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』
中野円佳著
PHP研究所(PHP新書)
880円(税込)

 最近にわかに話題になる「すべての女性が輝く社会づくり」。このスローガンを聞くと私はついイラっとしてしまうのだが、本書を読んでその理由が分かった気がする。それは、今の社会が「主婦の無償労働の上に成り立っている」にもかかわらず、その現実を直視していない言葉だと気付かされたからだ。

 本書『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』(PHP研究所)は、「専業主婦前提社会」の問題点を炙り出している。著者は、シンガポール在住で、日本と行き来しながら2児を育てる女性ジャーナリストだ。

 専業主婦前提社会とは、家事・育児などに関する無償労働を主婦に負担させて成り立っている社会構造のこと。夫が「働き手」となり長時間の通勤や労働に耐え、身を粉にして働く。激務の夫を家庭で癒し、将来の労働力となる子どもの面倒を一手に引き受けるのが主婦の役目、というものだ。

 だが、共働き世帯数が専業主婦世帯数を超えて20年近く経っている。この構造が、時代遅れであることは言うまでもないだろう。しかし、企業も社会も、もしかしたら個人まで、いまだ尾を引いているのが問題なのだ。本書には旧態依然とした仕組みに行き詰まっている専業あるいは共働き世帯の「しんどい」ケースが多数紹介されている。

 例えば、法曹関係の仕事をする夫と、その妻の場合。忙しいときには帰宅が午前3時を回る夫に対し、育児休暇中の妻は平日ほぼひとりで、2人の幼児を育てている。仕事に忙殺されている夫は「自己決定権があるので仕事は苦ではない」と言う。自分のペースでできることはほとんどない子育てを担う妻のほうが「精神的につらそう」と言いながら、妻には4年に及ぶ育児休業を取得させており、妻はもうこのまま専業主婦になる可能性が高い、とレポートされている。

「家事」にもかつての“専業主婦ありき”が影を落としているようだ。本書によると、「家が片付いていない」と言いながら毎日掃除・洗濯を欠かさない日本人女性は多い。もちろん夫の家事参加率は低く、では家事代行サービスを利用しているかといえばそんなこともない。平成26年度の調査によれば「家事支援サービスを現在利用している」と答えた女性はわずか1%。この低さの理由に「世間体」があるらしい。散らかった部屋を見られる恥ずかしさ、家事代行を利用していることを近所に知られる恥ずかしさ……家事労働は自分たちでやるもの、という固定観念が自らの首を絞めているようにも見えてくる。

 専業主婦(の無償労働)があってこそ成り立つ働き方、子育ての枠組みは変えなくてはならない。著者のメッセージは、多くの切実な共感を呼ぶことだろう。だが、どう変えていけばいいのだろうか。フルタイムでなくても責任のあるポジションに就く「総合職型パート」の登場など、本書には柔軟な働き方への明るい兆しがいくつか報告されている。やはり大切なのは、無意識の思い込みや過去の前例をいかに脱ぎ去っていくか、だ。

 まずは共働き、専業世帯の区別なく定時に帰ってみることから始めてはどうだろうか。そして本書を読みながら、無意識の前提について考えを巡らせてみたい。

今回の評者=皆本 類
情報工場エディター。
 

情報工場

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