デフレ下では「金融政策」に限界がある
中野 まぁ、そうですね。
一応、付け加えておくと、量的緩和によって「日銀当座預金」が増えれば、金利を下げる効果がありますから、企業などが借入れをしやすくなるという側面がないわけではありません。だけど、もともとデフレで資金需要がないために超低金利なのだから、量的緩和による金利低下の効力はたかが知れています。つまり、デフレ下では、金融政策には限界があるということです。
――なるほど。
中野 逆に、民間に借入れの需要があるならば、金融政策は有効に機能します。例えば、借入れの需要が多すぎて、銀行が貸し出しをしすぎている場合、つまりインフレの場合には、中央銀行が日銀当座預金を操作して金利を上げることで、貸出しを抑制することができれば、インフレを抑制できるかもしれない。
だけど、デフレのときのように、民間に借入れの需要がない場合には、準備預金を増やしたところで、銀行の貸出しは増えようがない。信用創造によって預金通貨が増えるから、それに応じて日銀当座預金(マネタリー・ベース)が増やされるのであって、マネタリー・ベースが増えるから預金通貨が増えるのではないのです。
このように、中央銀行は、インフレ対策は得意ですが、デフレ対策は苦手なのです。ところが、主流派の経済学の教科書には、中央銀行がマネタリー・ベース(日銀当座預金)を操作することで、貨幣供給量を増やしたり減らしたりしていると書いてあります。恐ろしいことに、経済学の教科書は、事実と異なることを教えているのです。これは、現代の天文学の教科書が天動説を教えているようなものでしょう。
――そうなりますよね。もしも、間違った教科書にのっとった政策を行って、効果がなかったということならば、それはきわめて残念なことですね……。