「国債を発行して財政支出を拡大することで、財政支出額と同額だけ民間の預金通貨は増える」。MMTは、こう主張しているが、これは「オピニオン」ではなく、「事実」であると中野剛志氏は言う。そして、この「事実」を知らずに、消費税増税にコロナウイルスが重なって、「恐慌」すらも起こりうる状況下で、国債発行による財政出動を躊躇するようなことがあれば、国民は”どん底”に叩き落とされるかもしれないと警鐘を鳴らす。どういうことか? 銀行の「信用創造」の実務、国債発行による財政支出の実務をもとに、中野氏に国家財政の「事実」について説明してもらった。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

「コロナ恐慌」で国民が“どん底”に突き落とされないために、絶対に知っておくべきことPhoto: Adobe Stock

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「銀行預金」は誰が創造しているのか?

――前回、負債を負ったときに「貨幣」が生まれるとする「信用貨幣論」について、教えていただきました。そのことと、「日本に財政破綻があり得ない」ことにどういう関係があるのでしょうか?

中野 まず、基本的なことから始めましょう。

 現代経済において貨幣として流通しているのは、「現金通貨(紙幣と鋳貨)」と「銀行預金」とされています。ここで重要なのは、「銀行預金」も貨幣に含まれていることです。銀行預金というものが、給料の受け取りや貯蓄、公共料金の支払いなどに使われており、事実上、貨幣として機能しているからです。

 しかも、貨幣の大半を占めるのは、現金よりもむしろ銀行預金のほうです。日本では、貨幣のうち現金が占める割合は2割未満なんです。

――そんなに少ないんですね……。意外です。

中野 そうなんです。貨幣の大半は銀行預金として存在しているんです。ここで質問です。どのお札にも「日本銀行券」と印刷されているように、紙幣は中央銀行(日本銀行)がつくっていますが、では、銀行預金(預金通貨)を創造しているのは誰だと思いますか?

――私たちが稼いだ現金を銀行に預けているのが「銀行預金」ですから、私たちが創造しているのでは?

中野 多くの人が直感的にそう思いますが、よく考えるとおかしいんです。たとえば、あなたが手元にある現金1万円を銀行に預けたら、預金は1万円増えるけれど、手元の現金は1万円減りますよね? つまり、あなたの総資金に増減はないわけですから、それを「創造」と言うことはできません。

――そう言われればそうですね……。では、誰が銀行預金を創造しているんですか?

中野 銀行です。実は、預金通貨は、銀行が「無」から創造しているんです。

――そんなバカな……。

中野 いえ、それが「事実」です。銀行が個人や企業に融資をしたときに、新たな銀行預金が生み出されるのです。

――いやいや。銀行は、私たちが預けた銀行預金を元手に融資しているんですよね? だから、銀行が創造しているわけではないでしょう。

中野 そう思っている人が多いですが、それも間違いです。実際には、銀行は預金を元手に貸出しを行うのではなく、貸出しによって預金という貨幣を創造しているのです。そして、借り手が債務を銀行に返済すると、預金通貨は消滅します。

 たとえば、ある銀行が、借り手のA社の預金口座に1000万円を振り込む場合、それは銀行が保有する1000万円の現金をA社に渡すのではありません。単に、A社の預金口座に1000万円と記帳するだけなのです。そして、この融資されて通帳に記入された1000万円という預金通貨は、A社が返済すると消滅するわけです。

 このようにして、銀行は、何もないところから、新たに1000万円の預金通貨を生み出すことができてしまうのです。これを「万年筆マネー」と言います。銀行員は融資をするときに、借り手の通帳に「1000万円」と万年筆で記入するだけだからです。いまであれば、キーボードで入力するので、「キーボード・マネー」とでも言うべきかもしれませんね。ともあれ、これは銀行で普通に行われている実務であり、これを「信用創造」と言うんです。

――そうなんですか……。銀行は、私たちが預けた預金を元手に融資していると思っていたので、とても驚きました。