1990年代から、日本は、国債を発行しまくって政府債務残高がどんどん増えて、多くの経済学者やエコノミストが「国債金利が高騰する、高騰する」と言い続けてきた。しかし、長期国債金利は世界最低水準にあるのが現状だ。なぜ、予測は外れてきたのか? 中野剛志氏は、「そもそも、貨幣を正しく理解していないこと」に問題があると言う。では、貨幣とは何か? なぜ、単なる「紙切れ」の紙幣で買い物ができるのか? 説明してもらった。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

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単なる紙切れの「お札」で、なぜ買い物ができるのか?

――前回、中野さんは、主流派経済学が「貨幣」を正しく理解していないとおっしゃいました。では、MMTは「貨幣」をどう理解しているのですか?

中野剛志(以下、中野) かなり遠回りの説明になりますが、付き合ってくれますか?

――もちろんです。

中野 わかりました。では、それをご説明する前に、私から質問してもいいですか? あなたは、単なる紙切れの「お札」が、どうして「貨幣」として流通していると思いますか?

――そうですね……。みんながその「お札」を受け取ると信じているからでしょうか。

中野 そう答える人が多いですね。では、なぜ、みんなはその「お札」を受け取ると信じているのですか?

――うーん……。

中野 答えられないですよね? みんなが「お札」を受け取るのは、みんなが「お札」を受け取ると信じているから。では、なぜみんなが「お札」を受け取ると信じているかというと、みんなが信じているから……。これを「無限退行」と言いますが、説明になっていないわけです。

 しかし、実は、主流派経済学の標準的な教科書とされる『マンキューマクロ経済学Ⅰ 入門編』(グレゴリー・マンキュー著、東洋経済新報社、2010年)でも、同じような説明がされています。読んでみましょう。

「原始的な社会では、物々交換が行われていたが、そのうちに、何らかの価値をもった『商品』が、便利な交換手段(つまり貨幣)として使われるようになった。その代表的な『商品』が貴金属、とくに金である。これが、貨幣の起源である。
 しかし、金そのものを貨幣とすると、純度や重量など貨幣の価値の確認に手間がかかるので、政府が一定の純度と重量をもった金貨を鋳造するようになる。
 次の段階では、金との交換を義務づけた兌換紙幣を発行するようになる。こうして、政府発行の紙幣が標準的な貨幣となる。
 最終的には、金との交換による価値の保証も不要になり、紙幣は、不換紙幣となる。それでも、交換の際に皆が受け取り続ける限り、紙幣には価値があり、貨幣としての役割を果たす。」

 最後の一文をご覧ください。「交換の際に皆が受け取り続ける限り、紙幣には価値があり、貨幣としての役割を果たす」というのは、さきほどのあなたの意見と同じことです。要するに、「みんながおカネがおカネだと思っているから、みんながおカネをおカネだと思って使っている」というわけです。これが主流派経済学の標準的な貨幣論なんです。

 しかし、この主流派経済学の説が正しいとすると、貨幣の価値は「みんなが貨幣としての価値があると信じ込んでいる」という極めて頼りない大衆心理によって担保されているということになります。そして、もし人々がいっせいに貨幣の価値を疑い始めてしまったら、貨幣はその価値を一瞬にして失ってしまうわけです。

――そう言われると、ずいぶん頼りない議論ですよね……。

中野 はっきり言って、苦し紛れの説明です。なぜ、そのような説明をせざるをえないかというと、主流派経済学が「商品貨幣論」を採っているからです。

――商品貨幣論とは?