『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。
そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。

実は、3月11日に発売される新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。本書は、一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマ執筆したエッセイを一冊にまとめたもの。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる科学分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。

資金力が豊富な「反科学陣営」とどう戦えばよいかPhoto: Adobe Stock
著者 マックス・テグマーク
マサチューセッツ工科大学の物理学者、精密宇宙論研究者、基礎疑問研究所(FQXi)サイエンティフィック・ディレクター

ハイチではまだ
「魔女狩り」が行われている

 科学において、人間の認識能力、判断能力の向上に何より役立つのは、おそらく「科学的思考」そのものだと思われる。

 科学界はこれまで、調査、研究という面においては目覚ましい成功を収めてきた。しかし、一般の人たちを教育するという面においては大失敗したと言わざるを得ない。

 ハイチでは今もなお魔女狩りが行われ、2010年には12人の「魔女」が殺されている。アメリカの最近のアンケートによれば、39%の人が占星術を科学だと考え、40%の人が人類の歴史を1万年より短いと信じているという。

 もし誰もが科学的思考を十分に理解していれば、このパーセンテージはゼロとなり、皆が科学的思考に基づいて生活するようになれば、世界は今よりも良いところに変わるだろう。

 なぜなら、あらゆる判断を正しい情報をもとにして下し、常に成功の確率を最大限に高めようとするからだ。国民の誰もが合理的な判断に基づいてものを買い、投票をすれば、企業や政府もやはり科学的思考に基づいて意思決定をするようになるだろう。

 なぜ私たち科学者は教育にこれほど失敗してしまったのか。その問いに答えてくれるのは心理学、社会学、経済学なのではないかと私は思う。

 科学的な生き方を実践するには、情報の収集、また収集した情報の利用の両方を科学的に進めることが求められる。だが、収集、利用の双方には大きな落とし穴がある。

 何かを判断する際、事前にありとあらゆる情報を集められれば、おそらくその判断は正しいものになるだろう。ところが困ったことに、さまざまな理由から完全な情報というものを得られない状況がある。情報を得るための手段を持っていない人も少なくない(アフガニスタンではインターネットを使える人が国民の3%しかおらず、2010年のアンケートでは国民の92%が9.11テロを知らないという結果になった)。