資金力が豊富で合理的な
「反科学陣営」とどう戦えばいいか
その理由として明らかなのは、逆方向の力が強く働いているということだ。こちらの力のほうが強いと言ってもいい。人々があまりに正確な科学的知識を持ってしまうと自分たちの利益が損なわれるのではと懸念する企業には、科学教育を阻害する動機がある。ニセ科学をよりどころとする新興宗教団体なども、自分たちの怪しげな理論を信じない人が増えれば力が殺がれると恐れている。
ではどうすればいいのか。
私たち科学者はまず謙虚になって、自分たちのやり方が間違っていたことを認め、もっと良い方法を考えるべきだろう。私たちの強みは何と言っても正しい根拠をもとに行動ができるということだ。だが「反科学陣営」には資金が豊富という強みがある。
皮肉なのは、反科学陣営のほうが、科学者たちよりも「科学的な」組織を持っているという現実だ。たとえば、ある企業が自分たちの利益を増やすために人々の考え方を変えたいと思ったとする。その場合、彼らは科学的かつ極めて効果的なマーケティング・ツールを駆使する。
まず、現在、人々はどのような考え方を持っているのかを調べ、そして、それを具体的にどう変えたいのか、目標を明確に定める。人々は今、何を恐れ、何に不安を感じているのか。人々のどういう感情を利用すれば、自分たちの目的が達せられるのか。人々の考え方を変えるのに最も費用対効果の高い方法は何か。すべてを詳しく調べたうえで綿密な計画を練り、実行に移す。そしてそれを確実にやり遂げる。
彼らの出すメッセージは単純化されすぎているし、誤解を招く恐れもはらむ。また、競合相手(この場合は科学者たちだ)を不当に貶めるものになっている場合もある。
これはまったく不思議ではない。企業にとって反科学のキャンペーンは、最新のスマートフォンやタバコを売るためのものと何ら違いはないのである。だから、科学に対抗するときだけ行動基準が異なると思うのはあまりに世間知らずというものだろう。
「反科学陣営」と比べて
科学者たちが優れている点とは何か?
確かに私たち科学者は、時に痛々しいほど世間知らずだ。自分たちは道徳的に優位な立場にいるのだから、いくら企業が反科学的な動きをしようと負けるはずがないと深く考えもしないで信じ込んでしまうところがある。
だから、彼らと対抗するのに、時代遅れで非科学的な戦略しか採れないことも多い。科学者たちは、彼らと同じレベルにまで降りたくないと思っているのかもしれない。
大学教授ばかりが集まる食堂で「世の中を変えていかないと」などと話し合って盛り上がったり、ジャーナリストを相手に延々と退屈な統計データを読み上げたりしたところで、何が変わるというのか。どういう科学的根拠でそれが有効だと思うのか。
私たち科学者は、戦車を使う敵を倫理に反すると批判し、その戦車に剣で立ち向かっているようなものなのだ。
科学的思考とは何か、また生活をどう改善できるのか、それを人々に教えたいと思えば、そのための方法も科学的に行う必要がある。
まず、科学教育を推進するための専門団体を新たに設立すべきだ。その団体は、企業と同じように、マーケティングや資金集めに科学的な手法を使う。広告宣伝、消費者団体へのロビー活動など、科学者たちが嫌がりそうな手段も多く使う。広告のキャッチフレーズは、消費者にアンケートを採り、強く印象に残るとされたものを採用する。
もちろん、卑屈になるわけでもないし、知的レベルを下げるわけでもない。不誠実なことは言わないし、しない。この闘いにおいて私たちには、何よりも強い武器がある。それは「事実」だ。この武器を最大限に利用しなくてはいけない。