会社に行きたくない会社員新型コロナに感染したくないとの理由で会社を休む社員に、果たして特別休暇は認められるのだろうか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、多くのビジネスパーソンが感染の不安を抱えていることだろう。できることなら在宅勤務、それが無理ならいっそ、休暇を取得するか。しかし、「新型コロナに感染するのが怖い」との理由で特別休暇を申請して、会社はそれを認めてくれるのだろうか。(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
 地方大手の物流会社。従業員数300名。
<登場人物>
 :28歳。大学卒業後に新卒入社。以来総務課で経理を担当している(有休基準日・9月1日)
 :45歳。総務課長
 :35歳。経理セクションの主任
 :甲社の顧問社労士

繁忙期に病欠した
社員がついた嘘

「今日から決算で忙しくなるというのに…」

 B総務課長はそうつぶやくと深いため息をついた。その理由は朝受けた1本の電話にあった。

「もしもし、Aですが…体調がまだ回復しないので、今日も会社を休みます」

 Aは体調不良が原因で3月23日から会社を休んでいた。B総務課長が理由を尋ねると、「喉が痛くて体がだるく微熱もあるみたいなんです」という。コロナ騒ぎの真っただ中ということもあり、病院へ行き自宅でゆっくり静養するように伝えた。

 しかし3月下旬になってもAの休みは続いていた。Aの所属する経理セクションでは、甲社の決算日が3月31日であり、4月中までは日常の経理業務に加えて決算事務を行うため、今日から猫の手も借りたいほど忙しくなるのだ。しかしAの病状が回復しないので他のメンバーも不安を募らせていた。

「Aさんの具合は心配だけど、これから忙しくなる上に、Aさんの穴を埋めるとなれば自分たちはますます忙しくなる。一体どうなるんだ」

 その日の午後、B総務課長は現在の病状を確認するためにAの携帯に電話をした。状況次第ではAが抜ける穴を補うため、当分業務の組み換えが必要だと考えたからである。

 電話に出たAは、モゴモゴとした声で答えた。

「はあ、そのぉ…調子は良くないです。当分出社は無理そうです」
「そうですか…わかりました。お大事にしてください」

 そういって電話を切ろうとしたとき、AがB総務課長に尋ねた。

「今回の休みですが、3日間残っていた自分の有休を全部消化しようと思います。それで残りの休みは傷病休暇を取得していいでしょうか?」

 甲社には会社独自の特別休暇制度があり、病気、ケガが原因で会社を休む場合には傷病休暇として最高30日間基本給を100%支給されることになっている。

「わかりました。それでは会社出社時に医師の診断書を添えて、傷病休暇の申請書を提出してください」
「医師の診断書ですか?」
「そうです。傷病休暇を取得する場合は、医師の診断書が必要です。その内容を確認して休暇の条件に当たるかどうか判断します」
「じゃあ、その診断書がないと傷病休暇は取れないんですか?」
「そうですね。休暇を取るための条件とか申請方法は就業規則で決められているので読んでみてください」
 
 しばらく沈黙が続き、やがてAが重い口を開いた。

「実は僕、病気じゃないんです」