利益率10%以上を上げられるプライシングとは? 収益の上がる投資の極意とは? 『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』(NewsPicks Book)などの著書で知られる田端信太郎さんは、実はBtoBマーケティングのプロ中のプロ。その切り口で語られる機会は少なく、この記事では貴重にもBtoBマーケティングについてガチでリアルに語っていただいています。(本記事は、書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』の著者・山口義宏さんがファシリテーターを務める「マーケサロン」で2019年9月に開催したトークイベントのダイジェストです)

「高嶺の花」感をいかに演出するか

山口義宏さん(以下、山口) 新卒で入られたNTTデータ、リクルート、ライブドア、コンデナストを経た後、LINEに移られますよね(詳しくは本記事の前編へ)。LINEは大きく投資をして、BtoBマーケティングのソリューションとして仕組みをつくられた印象があるんですが、移られたのが2012年だから、もうプロダクトはできていて流行り始めたころですかね。

田端信太郎さん(以下、田端) そうですね。今からマネタイズ(収益化)しよう、というタイミングでした。ユニークユーザーが800万ぐらいいたかな。

山口 そこで、広告事業をつくれ、というので、何から始めたんですか。

田端信太郎さんがBtoBマーケティングをガチで語り尽くす<後編> <br />成功する営業マンだけが知っているプライシングと投資の極意<br />田端信太郎(たばた・しんたろう)さん
人気オンラインサロン「田端大学」学長。1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に退社。同年3月にスタートトゥデイ(現ZOZO)コミュニケーションデザイン室長、19年4月に執行役員、同年末に退社。現在、レバレッジのマーケティング戦略顧問。著書多数。※本記事の対談実施時はZOZOご在籍時(2019年9月)です。

田端 オシャレに言うと、BtoBマーケティングで大事なのは「ソート・リーダーシップ(thought leadership)」というか、自分たちがこの業界や世の中をリードするんです、っていうマウントをいかに取るか、です。

 たとえば、『VOGUE』の特殊面と呼ばれる表4(背表紙)や表2(表紙をめくってすぐの面)は、広告営業して売る世界ではなくて、人気の不動産に近い。銀座の中央通りに誰が出店するかという話に似て、実のところいくらでも希望者がいるなかで既存クライアントの既得権をどう調整するかなんですね。去年はAというブランドが表4を6回、表2を6回だったけど、Bというメーカーが伸びてきたので、今年はAを少し減らしてBに振り分けて…みたいなことをやっている。しかも、まずは普通のページの広告を少しずつ買って功徳を積まないと、いい場所は買わせてもらえない。ポッと出の成金に入れる世界じゃないよ、みたいな上から目線の世界というか、「高嶺の花」感をいかに演出するかの勝負です。

山口 軽井沢の超一等地が買いたかったらコミュニティに貢献しろ、みたいな話ですよね。

田端 そうです。でも、一度おかしな広告があふれ出してイマイチなイメージがついちゃうと、二度と一流にはなれないから、そういうマウントする姿勢は必要なことでもあるんです。
 実際、それで失敗したのが昔のガラケーです。ガラケーは今のスマホぐらいに普及率が高かったのに、ガラケーの広告は最後まで2.5流ぐらいのままでした。消費者金融や怪しい健康食品、アダルトコミックみたいなものばっかりになったら、トップメーカーなんて出してくれない。

 だからLINEでは、そこはかなり気を付けて我慢しました。ページ下のフッターに怪しいゲームやエロコミックの宣伝が出るみたいな広告を入れれば、マネタイズはもっと早くできたと思います。でも、それをやったら自分がいる価値はないと思ってやらずに、掲載基準を厳しくした広告モデルのスタンプを作ったり。ユーザーの立場でいえば、スタンプっていつも同じだとつまらないけど有料で買うほどでもない、という方は多いと思うんです。そこへ、ソニーピクチャーズさんからスパイダーマンのスタンプを出してもらったら、新作キャラクターだと一気に数百万はダウンロードされる。それを1週間に2枠までに制限して、意図的にクライアントの飢餓感をあおったんです。

山口 超人気の土地の切り売りですね。いっぱい仕入れた後の第1期販売みたいな。

田端 そう。一時はうまくいきすぎて、入札のエントリー制になるぐらい人気だったんです。すると、IPO(株式公開)の人気銘柄みたいに、一定以上は買えなくなる。むしろ「どうやったら枠を買わせていただけるんですか。教えてください」と、営業の現場は断るのが仕事みたいになって、相手の企業がなぜ落ちたのかを説明しなきゃいけなくなっていました。

山口 それはそれで、若手の営業マンが勘違いしやすい危険なパターンですね。

田端 そうです。だから、新卒の営業マンには「こういう状況は何年も絶対に続かないから」と口酸っぱく言ってました。逆にライブドアのときは事件後、アポすら入れてもらえない、本社ビルを移したいのに不動産も貸してもらえない状態でしたから、そういう中で営業するとある意味では非常に鍛えられますよね。

 BtoBマーケティングの醍醐味は、たとえれば「武器商人トーク」ができるかどうか、です。ほかは射程3キロの大砲しかないのに、坂本龍馬だけが10キロ撃てる大砲をもっていたら、バチバチ戦ってる薩摩軍と幕府軍は、特に売り込まなくても買いに来ますよね。つまり、供給に限りがあって、それを手に入れたら超有利になるという商売なら、オークションモデルになるはずです。顧客側が焦らされる状態にもっていければ勝ちです。