儲かる会社のプライシングはどこが違うのか

山口 BtoCモデルだと、欲しいというお客様に対して「あなたには売らない」と断れないじゃないですか、基本的に。でもBtoBなら売る側に「断る選択肢」があるというのが一番の違いですよね。

 僕が知る狭い観測範囲での傾向に過ぎないですが、BtoBビジネスのマーケティングやセールスで成功した人は、簡単にいうとアクが強い人が結構多い。上から目線で話すので、人によって好き嫌い評価が分かれる性格だけど、同時に信者も生まれるような人を沢山見かけます。好き嫌いが別れても、相性の良い人には単価の高いソリューションを売ってくるので結果的に成果が出る。これは単価が高いビジネス構造とかなり関係があるんだろうと思いますね。自分も他人のこと言えないですが、マーケティングサービスを提供しているBtoB企業の経営者で生き残っている人は曲者だらけですよ(笑)

田端 アメリカのトランプ大統領みたいなのが、BtoBの不動産業界にいる典型的なタイプですよね。

山口 不動産は物理的に在庫が限られるので極北ですね、きっと(笑)。話を戻すと、売る広告の枠を絞っていくとすると、単価はかなり上げたわけですか。

田端 もちろん。めちゃくちゃ上げました。3年で3倍ぐらい上げました。でも、最初のころにキークライアントになってくださった企業には安くお願いしていたので、途中で値上げをお願いに行くと、「この恩知らず!」とすごく怒られました。

山口 とはいえ、それでもどんどん広告主が増えていくわけですから、営業体制も人員を増やしていったわけですよね。どのぐらいの体制だったんですか。

田端 LINEの広告営業で200-300人いるんじゃないですか。スタンプがうまくいってからは、ほかにも運用型広告とか始めていろいろなメニューがあるので。

山口 BtoBの広告の枠の単価の値付けって本当に大事ですね。儲かっている会社とそうでない会社ではプライシングが全然違う。

田端 僕がいつも言っているのは、バリューとプライスとコスト、この3つの関係をどう説明できるかが大切だということ。たとえばBtoCマーケティングだと心理的なバリューばかり語る一方で、営業的バリューについてはほとんど語らないと思うんです。でも、BtoBマーケティングはバリューベースのプライシングが基本

 どういうことかと言うと、たとえば初めてエレベーターをつくった会社の営業マンは、ビルのオーナーたちにどういう営業をすべきか、考えてみてください。100年ぐらい前に、おそらく昔はレンガ造りの5階建てのビルなら一番上が一番安かったと思うんです。登っていくのが大変じゃないですか。でも、エレベーターができたら、上のほうが眺望もいいし、ビルのオーナーにとってみれば家賃の上昇余地ができる。しかもエレベーターは消耗品じゃないから、10年使うとすれば家賃の引き上げ分でペイすればいい。しかも今まだエレベーターは年に10台しか作れませんので不要ならほかのビルに売ります、でもおたくはすごくいい立地だしエレベーターを設置すれば家賃収入がこのぐらい上がるはずだから、そのうち3分の1か半分ぐらいはエレベーター分としてお支払いいただいてもいいんじゃないですかね、というふうに僕なら営業します。イケてないBtoBの営業マンはたいていコストを積み上げたうえに適正利潤として5%か10%乗せさせていただく、というプライシングをする。

山口 後からプライシングを上げるのは大変なので、サービス提供初期でブランド力がないときでもどれだけバリューベースで説得して単価を高く設定できるかが重要ですよね。

田端 コストはどうでもいい、と言ったら言い過ぎかもしれませんが、粗利率が高い会社は絶対バリューベースで考えているんですよね。そうじゃなきゃ利益率10%以上は絶対にいきません。

 あとね、各施策のさまざまな段階のコンバージョン(成約率)を見て、一番ボトルネックになっている部分から優先して投資すべきだと思いますね。僕はゴルフはやらないんですが、広告をゴルフにたとえると、マス広告はドライバーで、営業マンがパターなんですよ。最近よく見るタクシー広告は、ミドルからショートアイアンっていう感じ。じゃあゴルフでスコアを上げたい、というときに、パターだけとかドライバーだけとか強化してもダメで、総合的にスコアメイクするのに何がボトルネックになっているか見極めて、そこを集中的に練習したほうがいいわけじゃないですか。なのに、たとえばタクシーのCMを一杯やって問い合わせは増えたんだけども、営業マンが結局回り切れずに、2週間も3週間も寝かせてクロージングできなかったりするともったいない。併せて営業マンを採用して強化しないと意味ない、とかですね。そういうチグハグな状況は散見されると思います。