顧客満足度はリピートに効くのか?
山口 では、会場からの質問を受けていきましょう。
会場の質問① 売上とCS(顧客満足度)をバランスよく保ちながら顧客を増大するにはどうすればいいですか。
田端 アクセルとブレーキを同時に踏むのは無理なので、1年おきなのか3ヵ月おきなのか商材によって期間は違うでしょうけど、振り子のように施策を極端に振って、バランスさせるしかないと思います。今はとにかく新規顧客の拡大を追う、顧客が増えてCSが下がってきたなと思ったら今度はCSを追う、という感じですよね。両方を均等に頑張ろうとすると、前に進まなくなります。
あるいは、最近のSaaS企業でよくあるのは、新規顧客の開拓部門と解約防止の部門を完全に分けてしまうという方法。それでも、どちらかバランスさせなければならないので、これは経営における永遠の悩みですね。
山口 CSってリピートに効く業界と効きにくい業界があったり、調査のとり方でもだいぶ変わるので意外に取り扱いに注意が必要な概念ですね。
田端 特に継続課金のサービスだとCS大事ですね。一方でシステムの切り売りやゼネコンみたいな業界だと、売って終わりって感じもあるから、それほどでもないでしょうけど。
会場の質問② BtoC畑だと、たとえば外資系の消費財メーカーで経験を積むとキャリアが開けるというのがわかりやすいですが、BtoB畑の場合はどこで経験を積むのがよいでしょうか。
田端 あえて1社挙げるなら、セールスフォースだと思います。やっぱすごいわ、あの会社。求人広告に、インセンティブは青天井って書いてありますからね。
基本的に、できる営業マンって「結果さえ出せばいいんでしょ」って感じで、管理されるのは嫌な人たちだと思うんですよ。口八丁手八丁で、ブラックボックス化されている。それに対して、クラウドでデータを管理してガラス張りにするサービスなんて、営業マン自体は本能的に嫌なはずだけど、セールスフォースはそれを自分たちも実験台になって実践してて、サラリーやボーナスのアップが決まるKPIも全部セールスフォースを使ってやっているんですよね。アートとサイエンスの間みたいな世界最先端のサービスをきちんとやってるのはすごいし、そこでキャリアを積むことには意味があるんじゃないですか。
山口 昔ならSAP、今はセールスフォースが、いわゆるBtoBの雇われながらの高給ハイキャリア外資の代表格な気がしますね。その昔、もう20年近く前ですが、SAPさんと一緒に共催セミナーを実施したことがあるのですが、新卒2年目ぐらいの若手営業マンも、大型顧客がとれたらインセンティブで相当なボーナス金額が入ると聞いて驚きました。その金額なら必死で顧客追いかけるなと思った覚えがあります。
僕はマーケティングオートメーション(MA)は、リード顧客(見込み客)リストが5000名以上あるならばROI(投資収益率)も成り立ち、基本的にはやったほうがいいと思っています。でも、懐疑的なのは、リード育成の部分なんですよね。育成のためのコンテンツ投資のエネルギーを考えると、リターンが見合うかどうか怪しい業態や、そもそものリード顧客数が少なすぎるとROIも低い。
その点、企業としてセールスフォースがすごいと思うのは、僕が知る限り、ホームページからホワイトペーパー(サービスの機能やメリットや事例を解説した資料)をダウンロードしたら、すぐに営業の電話がかかってきてアポをとろうとしてくるところです。意地悪く言えば「そこからMAのコンテンツ配信でリード顧客育成のほうが効率的じゃないの?」と思うのですが、日本の地理的な狭さや商習慣からいったら、アメリカのようにサイトやテレビ会議で済ませることを押し付けるより、直接会いにいったほうが結果的には営業成果があがると判断し、日本市場にローカライズされているのだと思います。そのあたりの匙加減が、すごくリアリストだなと感心しました。
田端 リクルートでホットペッパーをやっていた平尾勇司さんが言っていた有名な言葉があって、「最小の能力で最大の成果が出るような仕組みをつくったうえで、最大の能力を投入するのが経営だ」と。MAって効率を上げる仕組みだけど、働き方改革とは真逆というか、インプットを最大化したら、それをアウトプットするところは超最大化する、その貪欲さやどう猛さが実はいちばん大事なんだろうと思いますね。