一方、性自認・性同一性におけるセクシュアル・マイノリティ(トランスジェンダー)は、就職活動の時点で「働きづらさ」の壁にぶつかることが多い。

 カミングアウトをしたうえでの就職(就業)では、企業の人事担当者や配属先の従業員が、「いままでに(トランスジェンダーに)会ったことがない、接したことがない」という立場から、不適切な対応を取りがちだ。当事者にとっては、腫れ物扱いされるような不本意なハートに加え、トイレ・更衣室・制服といったハード(設備)の問題にも「働きづらさ」がおよんでいく。

 職場にいる者が、共(とも)に働く仲間であることを常に意識し、当事者を孤立させないことが望まれる。

当事者をサーチライトで照らす姿勢は
避けるべき

 パートナーシップ制度導入の自治体の増加とともに、同性パートナーを持つ、あるいはこれから持つ従業員を考慮して、就業規則の改訂を行う企業も多くなった。

 配偶者や子の定義を見直すことで、慶弔金の支給や休暇取得などで非当事者との待遇差を生まないようにすることが一般的だが、制度を整えたからといって、当事者の存在をサーチライトで照らすような姿勢は避けるべきだろう。

 LGBT総合研究所(東京・港区)の最新調査によれば、8割弱の当事者が職場関係者のみならず、周囲の誰にもカミングアウトしていない状況であり、生活や仕事に支障がなくてもカミングアウトの必要はないと考える当事者は4割にもおよぶ。(LGBTであることを)探らないでほしい従業員もたくさんいることを知っておきたい。また、非当事者は日常での不用意な発言を控えながらも、LGBTの存在に過剰に気を回さないことも共(とも)に働くにあたって大切だろう。

 もし、自分が当事者なら、「いまの職場環境はどうか? これからどうあるべきか?」を考え、働く者すべてに配慮のある環境づくりをしていくべきだ。

 また、ダイバーシティ&インクルージョンの推進段階において、女性活躍や障がい者雇用を優先し、LGBT施策まで手が回らない企業も目立っている。

 しかし、若年層が企業のホワイトさを見分ける尺度のひとつにLGBTダイバーシティ推進の有無を考えることもあり、優秀な働き手の確保のためにも、LGBTへの対応は、2020年代において、なおさら必須のものになるだろう。

 経営者や人事担当者のみならず、働く者一人ひとりが社会で発信される情報に敏感になり、LGBT当事者のことを、より正確に「知る→理解する」というステップを踏んでいくことが肝要だ。

※本稿は、インクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」の掲載記事を転載(一部加筆修正)したものです。