とある美術教師による初著書にもかかわらず、各界のオピニオンリーダーらやメディアから絶賛され、発売3ヵ月で5万部超という異例のヒット作となった『13歳からのアート思考』。先行きが不透明な時代だからこそ知っておきたい「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出す思考法とは? 同書より一部を抜粋してお届けする。
「視覚」から「思考」への最後の”ダメ押し”
直近2回にわたって「最も影響を与えた20世紀のアート作品」の第1位にも選ばれたマルセル・デュシャンの《泉》というアート作品について見てきました。
《泉》はアート作品だと言われていますが、それ自体は「偽名のサインが入った男性用小便器」でしかありません。しかしこれは、単なる悪ふざけではなく、デュシャンなりの探究に基づいた「表現」なのです。
では、デュシャンはこの奇妙な作品を通じて、いったいなにを表現したかったのか? 今回はこれを解説してみたいと思います。
※参考記事
▶︎「最も影響を与えた20世紀アート作品」第2位はピカソ《アビニヨンの娘たち》。では第1位は…?
https://diamond.jp/articles/-/236566
▶︎「先生、この便器にもサインしてください!」そう頼まれた《泉》の作者デュシャンがとった驚きの行動
https://diamond.jp/articles/-/236567
すでにお話ししたとおり、ルネサンス絵画の世界では、「花=作品」の美しさや精度などの出来栄えが、すぐれた作品であるかどうかの決め手とされていました。
別の言葉でいえば、「視覚で愛でることができるかどうか」こそが、最も重要だったのです。だからこそ、目に映る世界を描き写す遠近法などが、大いにもてはやされました。