『週刊ダイヤモンド』4月1日号の第一特集は「美術とおカネ アートの裏側全部見せます。」。およそ80ページにも及ぶ大特集では、お金の流れから作家の生活、歴史から鑑賞術まで全てを網羅した。ここでは、アートが好きな経営者や学者、画家や写真家など特集で取材した“美の達人”たちのインタビューをお届けしたい。今回は、民間の寄附と国の文化予算の両面で問題を抱える日本の文化への接し方に異議を唱える、慶応大学名誉教授の竹中平蔵氏だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部  竹田幸平)

世界の産業ではものすごく
クリエーティビティーが求められている

──社会において芸術はどのような役割を果たすとお考えでしょうか。

たけなか・へいぞう/1951年生まれ。一橋大卒業。慶應大教授など経て2001年より経済財政政策担当大臣など歴任。10?14年度に寄附講座「アートと社会」開講。

 ニーチェは「芸術こそが至高のものである」と言いました。要するにこの世で最高のものがアートであり、人間を人間たらしめているのがアートだというわけです。

 あるジャーナリストが被災直後の東北に入って何がほしいですか、と聞いたらある人は「食べ物がほしい、水がほしい」と言い、ある人は「歌がほしい」と言いました。つまり、人間らしく生きたいということです。それがまさにアートで、その人にとっては歌だったわけです。それは絵画であったり彫刻であったりもするでしょう。

 2番目に、アートというのは見えない力でもあります。人を惹きつける力があるということですね。有名な話では、アフリカの貧困を救うために、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が世界を説得して回った話があります。取り組みは遅々として進まなかったのですが、そこにある時、ロックバンドのU2のボノが感銘を受けてプロジェクトに加わったら、物凄い人が集まり出しました。

 アートは生産されて売っているモノとは、根本的に違うところがいくつかあります。私たちの賃金というのは、生産性とともに上がるので、自動車であれば生産性の上昇とともに、車をつくっている人の賃金はどんどん上がっていきます。でもアートの生産性が上がるかといえば、かつて100人でやっていたオペラが今なら5人でできる、なんてことはあり得ませんよね。