借り手に倒産されると回収額が激減しかねない
既に貸し出し実績のある借り手企業が小幅の赤字に陥り、「その企業が仮に新規取引先として借り入れを申し込んできたとしても、この決算書では貸せない」という状態になったとする。
銀行としては「約束通り、返済期日には返してください。その後の融資はできません」と通告することも可能であるが、借り手が現金を持っていない場合には倒産してしまうかもしれない。
借り手が倒産すると、経営者や従業員が路頭に迷うのみならず、銀行にも多大な損失が生じかねない。まだ使える設備機械がスクラップ業者にたたき売られたりして、回収できる金額が激減しかねないからである。
そんなことなら、返済を待ってあげて、借り手が黒字に回復してからゆっくり回収する方が銀行にとって得だろう。
冷たい銀行だという悪評を避けたい
銀行は、評判を気にする。それは、企業が取引銀行を選ぶときに「わが社が苦難に陥ったときに、すぐに手を引く冷たい銀行よりも、見守って支援してくれる温かい銀行と取引したい」と考えるからである。
小幅の赤字の会社が新規の融資を申し込んだ場合、銀行は断っても悪評は立たないだろう。ある意味で当然のことをしただけだからだ。
しかし、既存の取引先が支援を求めて来たときに断ったことで、その借り手が倒産したとなると、「あの銀行は冷たい」という悪評が立ちかねない。
このあたりは絶対評価ではなく相対評価であり、他行との比較であるから、「他行より冷たい」と言われるのが嫌だということだろう。
このロジックは日米安保条約についてもいえる。多くの日本国民が日米安保条約を頼りにしているのは、米国は日本をしっかり守ってくれるだろうと考えているからである。それは、米国が親切な国だからではなく、米国が自身の利益を考えて行動するからである。
日本が外国から攻められたとき、米国は日本を守ることで血を流したくないだろうが、日本を守らなければ米国の評判は落ち、米国と同盟関係を結ぼうという国が激減するだろう。そう考えれば、日本を守ることが米国自身の利益になるのである。
銀行の行動も、それと同様である。親切だからではなく、自己の利益を追求すると、「救った方が儲かるから」という理由で救うのである。