だから、専門家会議は「平時」の審議会・諮問会議と同様に、学会の重鎮が大所高所から助言を行うために設置されたと考えられる。専門家会議の委員は12人。座長は脇田隆字・国立感染症研究所所長。副座長の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長は、20年間世界保健機関(WHO)に勤務し、西太平洋地域におけるポリオ根絶を手掛けたことで世界的に知られる大物だ。

 その他、岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長、押谷仁・東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授、釜萢敏・日本医師会常任理事、河岡義裕・東大医科学研究所感染症国際研究センター長、鈴木基・国立感染症研究所感染症疫学センター長など、学会の重鎮がズラリと並んだ。

 一方、コロナ対策の具体策を立案し、専門家会議の議題設定をするのは、厚労省・健康局結核感染症課の医系技官だ。医師免許・歯科医師免許を有し、専門知識をもって保健医療に関わる制度づくりの中心となる技術系行政官のことを指す(厚生労働省「医系技官採用情報」)。

 日本のコロナ対策は当初、PCR検査を抑制的に行い、医療崩壊を防ぎながら感染拡大が終息するのを待つというものだった(第234回・P3)。この意思決定には、2つの理由がある。1つは、新型コロナが「指定感染症」となり、コロナに感染したと診断されると無症状や軽症の人でも原則的に病院で入院隔離措置を取らねばならない「感染症法」が適用されること。もう1つは、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)を経験しなかった日本の感染症医療体制の脆弱性を考慮したものだ(第49回)。医系技官らしい、現行法と現場能力を考えた現実的な政策だったと思う。

 ただし、そこに問題がなかったわけではないという指摘がある。上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長によれば、世界のコロナ対策の議論をリードする英医学誌「ランセット」や英科学誌「ネイチャー」などの学術誌の議論を医療技官はフォローできていなかったという(上昌弘『医療崩壊 (37) 「医系技官」が狂わせた日本の「新型コロナ」対策(下)』)。

 同記事は、世界の最先端の研究成果で次第に明らかになっていく新型コロナの特性について、医療技官は十分な情報を得られていなかったと指摘。その結果、「感染拡大が過ぎ去るのを待つ」という最初に立てた対策に長い間固執してしまうことになったという。

 この指摘が正しいとすれば、医系技官は医師免許を持っているが、世界の最先端の議論を追う専門家ではないということだ。さらにいえば、専門家会議の重鎮たちも最先端の議論をフォローできていない、研究者として第一線を退いた人たちばかりだったということになる。