専門家会議が「クラスター対策」を
批判的に検証できない構図が問題

 一方、「厚労省・クラスター対策班」が発足したのは専門家会議の発足から11日後の2月25日だ。コロナの感染拡大が過ぎ去るのを待っていたかに見えた政府が、事態の深刻さを受け止め、ようやく明確な新型コロナ対策を打ち出した。

 クラスター対策班とは、厚労省の新型コロナウイルス対策本部に属する総勢約30人の組織だ。「クラスター対策」とは、理論疫学を専門とする西浦博・北海道大学教授と専門家会議の委員でもある押谷・東北大学大学院教授が中心となって考案したものだ。

 押谷氏が3月29日に発表した「COVID-19への対策の概念」によれば、クラスター対策とは、SARSや新型インフルエンザとは異なる、新型コロナウイルスの特性を考慮した対策である。

 SARSや新型インフルではすべての感染者が重症化したため症例を把握しやすく、感染連鎖をたどって断ち切ることで封じ込めに成功した。しかし、新型コロナは多くの感染者が軽症か無症状なので、すべての感染連鎖を見つけだすことができない。

 ただ、対策を検討する上で重要な特徴も分かってきていた。新型コロナは、多くの場合は周囲にほとんど感染させない一方で、特定の人から多くの人に感染が拡大していたのだ。つまり、「クラスター(感染者の集団)」を制御すれば、新型コロナは終息していくことになる。そこで「クラスター対策」を考えたのだという。

 西浦氏は、クラスター対策の具体的な方策を論文として発表している(Nishiura H et al. "Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 〈COVID-19〉)。ただし、多くの国で採用されているSARSや新型インフルの対策に準じたコロナ対策とは異なる手法であり、クラスター対策はいまだ仮説の域を出ないというのが公平な見方だろう。

 問題は、西浦氏が提案する「クラスター対策」という仮説を、専門家会議が批判的に検証できないことだ。西浦氏の専門は、個人ではなく集団を対象として病気の発生原因や流行状態、予防などを理論的に研究する「理論疫学」。そして、専門家会議のメンバーで「理論疫学者」は押谷氏と鈴木氏だが、2人とも西浦氏のクラスター対策に関する論文の共同執筆者として名を連ねている。クラスター対策を批判的に検証する立場にない。

 その他は、脇田座長(C型肝炎)、尾身副座長(ポリオ)、岡部氏(小児科学)、河岡氏(エボラウイルス)、川名氏(呼吸器内科)、館田氏(微生物学)、吉田氏(感染症制御学)と、すべて「個人の予防と治療の専門家」の臨床医。「理論疫学」は専門ではないのだ。

 そして、クラスター対策という仮説は専門家会議で承認された。安倍首相は、クラスター対策しか専門家会議から提案されなければ、それを認める以外の選択肢はない。