ビデオ会議はある意味、架空の環境ですが、そのバーチャルな世界に生きるというのもアリなのではないかと思います。特に、衣・食・住のうち「衣」に関する分野の産業は、withコロナの時代、大きく変わるかもしれません。私の場合、以前からラフな格好で仕事をしていますが、最近ではそれがますますラフになっています。襟にピンとのりが利いていなくても、多少のヨレは画面越しでは分かりません。仮に見分けが付くとしても、画像加工ができれば補正が効くようになるでしょう。同じことは服だけでなく、化粧などについてもいえることです。

 2000年代に、3Dアバターとして仮想世界での生活を楽しむ「セカンドライフ」というサービスが大きな注目を集めました。そこではユーザー同士が仮想の家や土地、衣装やインテリアなどをセカンドライフ内だけで通用する通貨で売買する、といった活動も一時盛んに行われていました。セカンドライフは通信速度や3DCGの処理能力などの面で時代を先取りしすぎた感がありますが、withコロナ時代の今、遠隔会議用のアパレルショップやコスメサービスなど、バーチャルな環境向けに似たようなサービスが、復活してくるかもしれません。

 withコロナ時代のオンライン、バーチャル環境向けに提供されるサービスとしては、2つの考え方があります。1つは「これまでのリアルを再現するもの」、もう1つは「バーチャルでの心地よい体験を提供するもの」です。

 リアルを再現するもの、というのは、どこかへ出かける体験を再現するようなものを指します。例えば、学生カップルがカフェで一緒に勉強したい、というのをバーチャルで再現するようなことが挙げられます。そこではビデオやVRヘッドセットでコミュニケーションを取れるほかに、ノートに書き込んだり見せ合ったりできるようなツールや、カフェ風の壁紙、コーヒーの香りを再現するようなツールも考えられるかもしれません。

 もう1つは、リアルをバーチャル空間で実現するのではなく、バーチャルでなければ実現できないこと、バーチャルならではの体験を提供するようなものです。故人をAIで再現することには賛否ありますが、例えば私が仮想空間でスティーブ・ジョブズとして話す、といった体験がつくれるならば、これはバーチャルならではのものといえるでしょう。こうした体験の提供はディープフェイクとして悪用もできるので、注意が必要ですが、これまでにない、あり得なかった体験を手に入れられる可能性もあります。

(クライスアンドカンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)