文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。週刊誌の真骨頂ともいえる政治家スキャンダルを追う記者やカメラマンの、スパイ映画さながらの取材手法を紹介する。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)
文春記者の張り込みの
イロハとは?
週刊誌の本来の役目の1つは政治家の醜聞です。芸能人のスキャンダルと同等に見る人もいるでしょうが、本来、政治家は「自ら手を挙げて立候補した者」であり、「最大限にプライバシーも明かす」のが納税者である我々への義務ですから、これこそ、週刊誌の本来の仕事だと思います。
芸能人はともかくとして、政治家の場合、相当に防御も堅く、追及には手間がかかります。過去に、週刊文春で愛人問題を追及した自民党元幹事長をどうやって突き止めたか、その詳細を明らかにしましょう。
元幹事長が昔、文春に書かれた地元の愛人(愛人を議員宿舎に連れ込んでいたと報道された)を東京に連れてきたという情報を得たのが、取材の最初のきっかけです。
不思議な電話が私宛てにかかってきました。
「昔、元幹事長の愛人問題を文春で書いたでしょう。また復活しているんです。その証拠に議員宿舎の表札の側にある蛍光灯の電気を必ず消しています。前回、女性を連れ込んだときに写真を撮られて、写真に宿舎の表札が映り込み、『名前がはっきりわかったのには参った』と言っているんです」
こんな具体性のある証言はまずありません。すぐにチームを作ります。こういう場合、まず2人で組んで張り込みを行います。 議員が東京の生活拠点にしている議員宿舎の出口近くを車で張り込むのですが、刑事ドラマのように簡単には尾行できません。
張り込んでいると、議員の妙な行動がわかります。夜中に議員宿舎の駐車場を徒歩でぐるぐる回りだすのです。多分、尾行を警戒しているのでしょう。何度も回って周囲を確かめると、裏口から出ていきます。この段階で、最初の張り込みは終わりです。
次回は、裏口から出てくる道に人を2人か3人用意します。 同じ人間が尾行するとわかるので、数百メートルで交代し、またその先数百メートルで別の人間に。これを繰り返して、議員宿舎近くのマンションに議員が入るのを確認しました。
議員宿舎の駐車場を徒歩で歩き回るのも奇妙な行動ですが、編集部員とすれ違ったとき、封筒で顔を隠したのも不自然です。有名政治家は、基本的に顔を見せたがるものですから。