8月2日、欧州中央銀行(ECB)の政策理事会で、ドラギ総裁は欧州債務危機に対する新たな施策を打ち出す方針を示した。中でも注目を集めているのが、ECBによる国債購入である。これが実現すれば、目下最大の懸念事項であるスペイン国債の利回り高騰を食い止める“即効薬”となり得る。
ただし、ドラギ総裁はその実施に“前提条件”を付けた。スペインが財政悪化国を支援する安全網である欧州金融安定基金(EFSF)あるいは9月半ばに稼働予定の欧州安定メカニズム(ESM)に支援を要請し、先にEFSFまたはESMによる国債購入が行われること、である。
ECBによる国債購入は、実質的にEU条約が禁じている問題国の財政救済となりかねず、財政規律の緩みを招く恐れがあるためだ。実際、過去にギリシャやスペイン、イタリアの国債購入が行われた後、それらの財政再建が後退した、との反省がECBにはある。EFSF、ESMによる国債購入では、支援を受ける国は条件として追加の構造改革策を“約束”させられる。これが規律の緩みに対する歯止めになる、との考えだ。
加えてドラギ総裁は、もし債務再編が必要となった場合に、民間債権者のみが負担を押し付けられるのではとの不安に何らかの対処をするなど、今後行われる国債購入が、従来とは異なる“新プログラム”となるとしている。
市場は早晩、ECBが国債購入を行うと判断し、7月に一時7.6%まで上昇したスペイン国債(10年債)の利回りは、8月21日時点で6.2%にまで低下した。
もっとも、これは一時的な小康にすぎない。新プログラムの具体的な内容は何も決まっていない状況だ。9月6日のECB政策理事会で、少なくとも概略は示されると思われるが、実施までには数々の難題が待ち受けている。
ドイツ、オランダ、フィンランドなどは、被支援国の“甘え”を招き、ひいては自国の負担を増やすことになる国債買い入れに依然として反対、ないしは慎重姿勢を崩していない。妥協点となるのが先述したEFSF、ESMによる支援だが、その条件設定が最大の問題だ。求められる追加構造改革策が厳し過ぎれば、スペインは支援要請を避けようとするだろう。一方で、緩過ぎるとそれらの国々の反発を招き、ECBは動くに動けなくなる恐れがある。