社員全員への抗体検査は
「無意味」である理由

――現在、全社員に抗体検査を受けさせる企業もある。感染予防などの観点から、検査の実施は望ましいか。

 抗体検査を一般企業が行うことは、3文字でいえば、無意味だ。

 抗体検査は用途が限定される。例えば、疫学調査には望ましいツールで、人口の何%が感染したか過去の状況を示すにはふさわしい。また、コロナ感染を疑われる状態の人がPCR検査で陰性だった際、コロナ感染だと判明させる補完の目的で使うこともできる。

 だが、抗体検査では、どの時点での感染であるかが全くわからない。抗体検査で陽性の場合、改めてPCR検査が必要になる。陰性なら感染していない証明にはなりえるが、この瞬間からまた感染の可能性がある。つまり、結果を何にも生かせないことから、企業が実施する意味はない。

 確かに、1度感染すると2度と感染しないことが確実なら、感染を証明できる「免疫パスポート」のために抗体検査を行いたい気持ちも分かる。ただ、新型コロナウイルスは、免疫が続く期間が短くなる可能性が高い。これも抗体検査を行う必要がない理由といえるだろう。

 19世紀に米国で黄熱病がはやった際は、免疫が社会的特権になって差別が起き、免疫を求めてわざと感染しようとする人も現れるなど、大きな問題になったこともある。

 さらに、あれだけ感染が爆発したニューヨーク、イタリア、イギリスでも、感染者は全体の15~20%で、日本では1%未満だ。免疫パスポートを与えられる人は、ごく一部に限られ、彼らに特権的な権利を与えても社会は回らないのだから、免疫パスポートは机上の空論にすぎない。

 それよりは、多くの人が感染予防し、流行状況を確認ながら軌道修正し、社会をみんなで回す新しい生活様式を行う方がよほど現実的だ。

――スウェーデンの集団免疫作戦も失敗に終わった。

 集団免疫は、全員が均質で、もともと免疫が全くない状況下において、「1-1/R(基本再生産数)」という理論式で求められる。今、基本再生産数が約2.5といわれていることから、1-1/2.5=0.6、つまり60%の人が免疫を持つと、集団免疫で流行が止まるという仮定になる。

 感染が爆発したイタリアの一部でも20%の感染率で、これが3倍になれば死者も3倍以上になる。達成が非常に難しい点が、集団免疫の第一の問題だ。

 もう1つ、先ほども述べた免疫が継続する期間も問題になる。新型コロナウイルスはおそらくインフルエンザと同じで、免疫が1年も持たないと思われる。これまでに確認されている他のコロナウイルスは1990年代の実験で免疫が続く期間は8カ月程度とわかっており、SARSとMERSも約1年で免疫がなくなるといわれている。

 類推になるが、新型コロナウイルスもこの冬に感染した人は、次の冬も感染する可能性がある。集団免疫を積み上げても、次の冬までにリセットされる可能性があれば、集団免疫作戦に意味はない。