前途多難な抗ウイルス薬開発
世界的なワクチン争奪戦へ

――治療薬の完成には、どのくらい時間がかかりそうか。

 今までに、治験している治療薬は、HIV治療薬のカレトラ、抗インフルエンザウイルス薬のアビガン、エボラ出血熱用のレムデシビルなど、既存薬の転用になるが、あまり効いていないのが実態だ。抗インフルエンザ薬と同じで、薬を投与した方が症状のある期間は短くなる効果はあるものの、死亡率、重症化率に変化はない。

 そうすると、よりよい薬を目指すならばゼロから開発する新薬ということになる。開発中のベンチャー企業をファイザーなどが買収しているが、そんな簡単にできるものではない。数年を要すことになるだろう。

 その代わりに朗報がある。重症時の治療薬の探索が進んでいる。新型コロナウイルスは当初、肺炎を起こすといわれていたが、それよりも深刻なのは血栓症という血が固まってしまう症状だ。これを避ける薬や、炎症が激しくなる症状を止める薬も検討されている。つまり、重症時の対症療法に効く薬は、効果が認められてきている状態だ。

――ワクチンはいつ頃までに実用化される可能性があるか。

 現時点では、どのくらい効果があるものができるのか、全くわかっていない。風疹や麻疹のように、ほぼ一生免疫のつくワクチンか、インフルエンザのように毎年打たなければならないワクチンになるのか、予想がつかない。

 現在、mRNAワクチンやDNAワクチンの開発が進んでいるが、安全性の問題やコストの問題で、なかなか現実的とは言い難い。また日本でも開発が進んでいるが、強力な開発体制とは言えない。

 そんな中で今、一番期待できるのは、アデノウイルスに新型コロナウイルスの成分を組み込んだベクターワクチンや、オーソドックスな「成分ワクチン」になる。早ければ今年末か来年頭頃には、試験的に一般人への投与が始まり、来年には供給可能になる可能性があるとみている。

 現在は、医療用の防護服や治療薬、PCR検査に重点が置かれているが、長期的な視野に立つと、効果的な方法はワクチンくらいしかない。これには供給の限界があり、最適分配の問題から政治的な意図が必ず入り込む。

 世界中が欲するワクチンであり、各国がどれだけ開発団体に資金を拠出したかで取り合いになるのは必至だ。どこが一番に名乗りを上げるか、完全供給できるか見込みがついたら、早く日本もコミットしなければ、国民分のワクチンを確保できない。

 日本政府はワクチン普及に取り組む国際団体などに多額の資金を拠出するなどしているようだが、これからワクチン争奪戦は激しくなるだろう。