場合によっては現行の契約状況やビジネス慣行を再検討することも考えられるし、業績評価のKPIや内部統制の見直しが必要となる可能性もあります。

山本:適用するとなれば監査人の意見も聞いておかなければなりません。自分たちは大丈夫だと思っていても、監査人から「それでは正しい収益認識はできない」と言われることも考えられますから。

 これまで見てきたように、新基準適用にかかる人的リソースやシステム開発コストなどの負担は小さくはありません。だからこそ混乱を回避して、過剰でも過少でもない合理的な対応を取る必要があります。たとえばシステム対応が必要になっても、次のバージョンアップのタイミングまで待って、それまでは人的手段で頑張ることも考えられます。

適用のその先のゴールを見据える

適用メリットを最大限に享受するためにはどのような視点が必要ですか。

荻野 どうせ適用するならば、前向きに活用することを考えるべきです。主な適用メリットをあらためて整理してみましょう。第1は経営管理への寄与です。収益基準をグループで統一すれば、事業セグメントや地域セグメントの正確な業績測定や評価ができるようになるし、たとえばM&Aの判断や買収後の統合についてもスピードアップが期待できます。また、財務や経理分野のグローバル人材の育成にもつながるでしょう。

 第2に、管理体制の見直しにつなげていくことも考えられます。先ほど契約状況やビジネス慣行の再検討、業績評価や内部統制の見直しなどに触れましたが、「やらされる」と考えずに、新基準適用をより高度な管理体制実現の契機ととらえる姿勢が重要です。

山本:予測不可能な市場の変化や不透明な経済動向の中で、経営に求められる意思決定のスピードと精度はますます高まっています。しかし、そのために必要な情報が適時、適切にマネジメントに上げられているかといえば、必ずしもそうはなっていない。新基準を適用することでこれまでざっくりとしていた収益の認識をきちんと行い、その事業や製品・サービスの本当の姿が浮かび上がってくることもあるはずです。稼ぎ頭とされる製品の利益率が実際にはそれほど高くなかったり、顧客にタダだと思われているサービスに想像以上のコストがかかっていたり。新たな収益認識基準の適用により、売上とそれにかかる原価、そして利益の実体を正しく把握する、すなわち、企業パフォーマンスを的確に把握する一つの手段となるのです。

荻野: 新基準の導入プロジェクト成功のカギは、マネジメントの強力なリーダーシップにあります。経理部門だけでなく、関係する部署やグループ会社の十分な関与が欠かせませんが、業績評価にかかる問題なので抵抗も予想されます。それだけにCEOあるいはCFOの主導で適用の理由を明確に示して、その目的に合致したプロジェクトのゴールを設定する必要があります。そうした姿勢が「適用のための適用」に陥らず、取り組みをより価値あるものにするはずです。【完】


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部