森:環境・社会・ガバナンスへの取り組みによって投資先を選ぶESG投資が、いま世界的に大きなうねりとなっています。社会的イノベーションに積極的に取り組む企業は、機関投資家からも高く評価されるようになっていくはずです。
民間国際組織GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によれば、2018年のESG投資額は世界で30兆ドルを超えました。日本は2兆1800億ドルで、2016年に比べて4・6倍に増加しています(図表2)。こうした流れは今後も続くでしょう。
髙波:社会にとっていいことをしていても、それを広く認知してもらうこと、特に国際社会に発信していくことが日本は不得手です。そこは克服すべき課題だと思いますが、変化の兆しもあります。
ESG関連の取り組みを含めた非財務情報を盛り込んだ統合報告書の発行社数は日本が最も多く、主要国の中央銀行や金融当局などで構成される金融安定理事会(FSB)の「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の提言に賛同した日本企業は188社(2019年8月23日時点)と、世界で最多となっています。
株主第一主義からステークホルダー主義への流れが強まる中で、社会との対話のあり方も見直していかなくてはなりません。それに気づいて、すでに行動を起こしている日本企業が増えつつあることは、素直に喜びたいと思います。
イノベーションへの取り組みは、非常に不確実性が高いもので、一つの成功の裏には、多くの失敗の積み重ねがあります。しかし、日本には失敗を許容する文化が欠けていると指摘されます。
髙波:不確実性が高まる時代に対応する経営モデルとして、KPMGでは「レジリエンス経営」に着目しています。あらゆる業界においてディスラプションが常態化する今日においては、機動的な変革と適応が求められています。それを実行するのが、レジリエンス経営です。
このレジリエンス経営には、失敗を許容し、そこから学ぶ文化や世の中の常識を打ち破る姿勢が欠かせません。しかし、「グローバルCEO調査2019」の結果からも、いま指摘されたような傾向が見て取れます。
たとえば、「イノベーションの取り組みにおいて、自社には『フェイルファースト』(失敗と挑戦を繰り返し、経験を積む)を奨励する文化がある」と回答したCEOの割合は、アメリカが80%だったのに対し、日本は41%に留まりました。
また、「自社の成長はビジネスの常識にチャレンジ・破壊する能力に強く依存する」と考えるCEOの割合は日本では33%と、調査対象11カ国中2番目に低い結果となりました。
現状の改善に留まらず、世の中の流れを巨視的かつ動態的にとらえて、強い意志を持って機動的な変革と適応を続けていくことが、大きな経営課題といえます。
森:ディスラプションが常態化する時代においては、変革しないことは衰退と同義です。
では、どのように変革の手を打っていくのか。たとえば、ディスラプターに破壊される前に、みずからが破壊者になるような新しいビジネスを展開する時、既存事業を担っている人たちにそれを任せようとするのは、論理的に無理があります。
既存事業を担っている人たちは、いまのビジネスモデルの延長線で、生産性や効率性を高め、確実に利益を上げていくことがミッションです。一方で、ディスラプティブな新事業は、その既存事業すら破壊してしまう可能性があります。したがって、既存事業部門にみずからを破壊することを始めろというのは、無理なのです。
ですから、そこはCEOが責任を持って、新事業創出のためのチームをつくり、みずからコミットして変革を推し進めるしかないと思います。
その際に、CEOが独断で暴走してしまったり、社会的倫理に反するような方向に行ってしまったりすることがないように、コーポレートガバナンスをしっかりと利かせることが重要です。つまり、レジリエンス経営はコーポレートガバナンスとセットになって、初めて活きてくるのです。