クロスボーダーM&Aには
国際税務のノウハウが不可欠
編集部(以下青文字):クロスボーダーM&Aには国際税務が関わってきますが、こうした専門知識に乏しい経営者でも知っておかなければならないトレンドや論点は何でしょう。
三輪(以下略):まず、クロスボーダーM&Aが世界的に拡大していることを踏まえて、タックスヘイブン対策税制にあらためて留意していただきたい。
日本企業のクロスボーダーM&Aが右肩上がりで増えているのは、周知の通りです。ただし、忘れてならないのは、欧米や中国のグローバル企業も、同じく成長を求めて海外に進出していることです。
M&Aは、相対取引の場合もあれば、オークション方式の場合もあります。いずれにせよ、売り手企業は一番高い金額を提示してくれるところに売りたい。ライバルも増えていますから、優良企業の争奪戦はこれまで以上に激しくなっています。
かたや買い手企業は、被買収企業が生み出すと想定されるキャッシュフローに基づいて買収金額を試算することがありますが、最終的なバリュエーション(企業価値評価)を大きく左右する要素の一つが税金です。言うまでもなく、キャッシュアウトを伴います。
たとえば日本のタックスヘイブン対策税制は、被買収企業の所得を、あたかも日本の親会社の所得と見なして、日本の税率で課税します。現地国の実効税率が10%だったとしても、日本のそれは32%くらいなので、その差額を日本で納めることになります。
ところが、先進国中、実効税率の低いイギリスは19%、アメリカも州税を合わせた実効税率は20%台後半で、日本ほど高くありません。そのうえ、日本企業の場合にはタックスヘイブン対策税制で課税される場合も、ライバルとなる他の国の企業が買収する場合には各国における同様の制度で課税されない場合もあり、こうした税制や税率の違いから、買収競争において日本企業は非常に不利な立場にあるといえます。
実際、ある日本企業では、日本のタックスヘイブン対策税制に対抗するアイデアがひねり出せず、バリュエーションが大きく目減りしてしまったため、投資機会を逸してしまいました。
もう一つは、多国籍企業が課税所得を操作し、しかるべき課税を逃れているというBEPS(税源浸食と利益移転)への対応です。これは、OECD(経済協力開発機構)が立ち上げたプロジェクトですが、これなどもバリュエーションの算出に大きな影響を与えています。