実はこの審決が確定した後、ファストリ側が「この審決自体が無効だ」と知財高裁に駆け込めば、ファストリは延長戦に持ち込める。

 一方、セルフレジの特許侵害に関する裁判については、7月ごろに審理が再開することが決まった。コロナの影響で延びることも考えられるが、一般的には年内には決定が出る。仮処分が出ればレジを使えなくなるため、ファストリ側は和解するという見方が強い。

 こちらもファストリ側は、仮処分ではなく本案訴訟(本訴、一般的な訴訟のこと)にさせて裁判所で決着したいと考えているだろう。仮処分ではなく本訴となった場合、仮処分の決定は先送りされ、最長で最高裁まで戦う可能性も出てくる。

 そうなると、勝負を左右する要素の一つに、アスタリスク側の体力が関係してきてしまう。

 現時点でファストリとの戦いのために、アスタリスクは弁護士や弁理士費用に月250万円を充てているという。中小企業にとって年間3000万円の出費は痛い。

「たまたま新型コロナの影響が小さかったため訴訟を続けられたが、業績が悪かったら戦えなかった」と鈴木社長は打ち明ける。

 このまま仮処分も出ず、特許そのものの争いも知財高裁へと進めば、あと数年はセルフレジが何台置かれようと金は入らず、アスタリスク側にはただ費用だけが積み上がっていく。

 知財コンサルタントの藤野仁三氏は、裁判の長期化は、特許制度の本質的な問題であると指摘する。

 知財高裁は「後知恵による特許性の否定」を排除しており、特許が審決で無効とされる割合は減っている。

 ただし、「裁判所で争う道は依然として残されているので、資金力の有無が最終的な結果に影響することは避けられない。裁判所も現行の制度は中小企業に不利という雰囲気を感じているようなので、それが本件にどのような影響を及ぼすかが今後のポイントだ」(藤野氏)。

 ファストリとアスタリスクの戦いからはっきりとわかることは、特許紛争については圧倒的に資本力のある大企業が有利であるということだ。金がなければ、特許を持っていたとしても、そもそも最後まで訴訟を戦い切ることすらできない。

 現状は、特許侵害は大企業の「やり得」になっている。ここに、問題の本質があるようだ。

新店・UNIQLO TOKYOのセルフレジ
新店・UNIQLO TOKYOにも、係争中のセルフレジが投入されている Photo by Rumi Souma

 ファストリは6月19日、東京・銀座に日本最大級のグローバル旗艦店「UNIQLO TOKYO」をオープン。その発表会の席上、柳井正会長兼社長は、「客のためになる店は栄える。店に意義があり、働く人が使命感を持ち、良い商品を売っている。行ってよかったという体験ができる。そういう店が生き残る。それ以外の店は今回のコロナでほとんどダメになる」と語った。

 確かにその通りだが、世界のアパレル業界の潮流はその先を行っている。アパレルは下請けへの搾取構造がまかり通ってきた業界だ。ただ、社会的責任を果たすべく工場や協力会社を開示し、クリーンさを打ち出すアパレルが海外では急成長している。

 商品はもちろん大事だが、顧客の目は厳しくなっている。UNIQLO TOKYOに並ぶレジのほとんどが、係争中のセルフレジだ。特許争いに審決が下されたときのファストリの振る舞いに本性が表れるだろう。