昨年12月3日に公表された国際学習到達度調査(PISA)で、日本の読解力は15位と、前回調査時の8位から大幅に順位を落とした。その要因として、よく指摘されるのは読書習慣の低下だが、話はそう単純ではないという。元文部科学省主任視学官で、今回の調査結果の分析にも関わった川村学園女子大学の田中孝一教授に詳しい話を聞いた。(清談社 福田晃広)
PISAで測る読解力は
日本の国語教育とは別物
まずPISAとはどのような調査なのか説明しよう。PISA(Programme for International Student Assessment)とは、OECD(経済協力開発機構)が進めている国際的な学習到達度調査のこと。2000年から始まり、義務教育修了の15歳児(日本の場合高校1年生)を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野を3年ごとに調査している。
毎回、参加国・地域も増えており、今回の2018年調査では79カ国・地域(OECD加盟国37カ国、非加盟42カ国・地域)、約60万人が参加した。
国際的な実施体制としては、OECDが中心となって、調査参加国の代表が構成する委員会や複数の国際請負機関により運営されている。日本では、国立教育政策研究所を中心に、文部科学省と連携・協力して実施している。
読解力といえば、多くの日本人は文章の詳細な読み取りをする力だと思いがちだが、PISA調査の読解力の定義は、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、取り組む力」としている。
田中氏も、一口に読解力といっても、わが国の国語教育の歴史的な流れも踏まえると、大きく3つの相(すがた)があると説明する。
「1つ目の相は、夏目漱石や森鴎外などの小説に出てくる人物の心情を読み取るといった日本の国語教育における伝統的な読解力のこと、2つ目の相は、2000年の第1回調査以来のPISAが求めていた読解力(いわゆるPISA型読解力)のこと、そして、3つ目の相は、今後、国際社会に必要とされる、インターネットを介して情報を検索・探索し、その価値や信頼性を吟味しながら読むことのできる読解力のことです」
「この3つ目の相としての読解力は、今回の2018年PISA調査が完全なPC利用型となり、その特徴を生かした調査形式・内容となったことで、新たな相として浮かび上がってきました。つまり、2つ目の相としての読解力の拡張版(いわば「新PISA型読解力」)と位置づけることができます。このようにして、2018年調査は、この3つ目の相としての読解力を中心に実施されました。読解力について、これら3つの相が明確に認識されずに、各人の今までの通念と立場から論じられているのがわが国の現状ではないでしょうか」
今回のPISAで問われた読解力(新PISA型読解力)は、これからますます発展が予想される情報社会を生きるための基礎力のようなもの。たとえば、今回のテストでは、とある電化製品のWebサイトに書かれている説明文を読み、その情報をどう見極めるかといった問題などが出題されている。
PISAは、実生活のさまざまな場面でどれだけ読解力が生かされるのかを見るものであり、特定の学校カリキュラムをどれだけ習得しているかではない。一般的には、読解力というと国語科の問題に集約しがちだが、PISAは社会科、理科、家庭科などのすべての教科に関連がある。