長期化するコロナ禍で「新しい生活様式」が推奨され、会社の方針や感染の状況で在宅ワークと出社が入り乱れているこの時期。なかなか「生活のリズム」をつかめないまま、仕事に集中できない日々が続いてしまっている人もいるのではないでしょうか。
「あたりまえのことがあたりまえにできない僕らにとって、変化があるだけでも厳しい」と話すのは、発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年7月29日の記事の再掲載です)。
「先延ばし」と、「マルチタスク」が融合したパニック
やるべきことが「たくさん」あって、どこから手をつけていいかわからない。気ばかりがどんどん焦るけれど、やるべきことの全体像を見渡すことすらできず、時間ばかりがどんどん過ぎていく。しかもその間はひたすら焦燥感に焼かれ続け、何もしていないのに体力気力はどんどん削れていく。
やる気がないわけでは決してない、むしろそのタスクが発生したときにはやる気で満ちあふれていた。でも、そういったやるべきことがいくつも重なって気づいたら「たくさんある」としか認識できなくなってしまい、どうしても手が出なかった。そして気づけば、すべてが間に合わない時間になってしまった……。
これはADHD傾向を持つ人の困りごととして最も多く挙げられる状態でしょう。
僕はこの症状が非常に強く、それこそ1日に3つもやらなければいけないタスクがあるとパニックになってしまいます。ガス代を払って、市役所で住民票を取って、仕事のメールを返す。これくらいの量ですら、体調次第ではタスクのオーバーフローが起こってしまう。
人生というのは「つまらない用事をいかに効率よくこなすか」が大きな問題になってきます。楽しくもなければ未来の足しにもならないけれど、やらなければ大きな問題が発生してしまう。税金関係の手続きなんかもそうですし、これが仕事となれば「ちょっとした雑用」すらこなせない人間に大きな仕事が回ってくることはまずないでしょう。
「自分でタスクを整理するタスク」ができない人へ
この解決方法は実のところそう難しくありません。タスクを紙でもなんでもいいから書き出して整理する。やってみると「あれ? 書き出してみるとこんなものか」となることのほうが多いくらいでしょう。しかし、これを読んでいるみなさんの多くは「タスクを書き出すというタスクを処理できるのであれば、最初からこんなことにはなっていない」という気分になっているかと思います。「たくさん」あってどうしようもないタスクに、さらに「タスクを書き出して整理する」というタスクをもうひとつ積み上げればさらなるパニックが襲ってくる。残念ながら、そういうことはよくあります。
そこで、僕が提唱する対策は「週に1回、誰かに現在抱えたタスクをひと通り聞いてもらって、書き出して整理してもらう」というものです。人間というのは不思議なもので、自分のことであればパニックになってしまう話でも、「他人ごと」であれば冷静に聞いて整理することができます。
・今抱えたタスクを全部いって
・それらの〆切はそれぞれいつ?
・それぞれはどれくらいの時間がかかるの?
・今入っている予定は?
こういったシンプルな質問でひとつずつ問われれば、たいていの人はすらすらと自分の抱えたタスクを洗い出すことができます。聞いているほうはそれをただ書き留めていくだけです。
このライフハックは不思議なことに、バリバリのADHD同士でも有効に機能します。「他人ごと」ならできるのです。だから僕は、同じくADHDの友人とよく「タスク整理」をZoomやDiscordなどのビデオ・音声通話アプリでやっています。
頼る人への「お礼」を忘れずに
この話の最大の教訓は「他人ごとは素晴らしい」ということです。自分のことであれば焦燥に支配されてしまうが、他人ごとであればシビアで冷徹な分析と整理ができる。誰しも経験があることでしょう。他人の脳は、人類が持ち得る最も優れたツールなのです。何をやるときにも「自分でできないときは他人の脳を使う」。その選択肢を、ぜひ覚えておいてください。
なお、そういった親切をしてくれる人にはきちんとそれに見合ったお礼や報酬を忘れないようにしましょう。「本当にありがとう、助かりました」という感謝の言葉も毎回しっかり添えて。これは、本当に大切なことなのでくれぐれも忘れないようにご注意ください。何度もお世話になるうちに感謝の気持ちが失せて「あたりまえ」になってしまうのは、最悪です。誰かに「頼る」ことは素晴らしいことですが、「頼り方」というのは常に気を配るべきことなのです。