カチン独立軍は推定1万2000人。かつては中国共産党やビルマ共産党と同盟関係を持った古参勢力で、政府施設や橋梁の爆破などで名をはせた。

 一方、ワ州連合軍は米国務省が覚醒剤を密造していると認定している組織で、潤沢な資金を背景に欧米製の自動小銃など近代装備で知られる組織だ。

 アラカン軍は、これら勢力から違法薬物の密輸も請け負っているとみられ、その販路はバングラデシュやインドの先にも広がる。少数民族問題と違法ビジネスが入り交じった複雑な事情がここにはある。

 そして、最後にスー・チー政権による人権抑圧と強権政治が挙がる。

 スー・チー政権の抑圧政策は、国内では言論統制にも向けられている。これまで、ラカイン州を取材したロイター通信の記者や現地のニュースサイトの編集長が逮捕されたほか、表現の自由に関連する訴追件数は政権の発足以降、通算1000件を超えた。

 統制はスー・チー氏個人に対する言論にも及び、一般市民が刑事責任を問われたケースもあった。地域によってはインターネットへのアクセスが制限されているほか、政権批判をした下院議員が議員資格を剥奪される事態も起こっている。

 かつての側近を切り捨てる動きも広がっている。1988年の民主化運動をともに主導したコー・コー・ジー氏は前回総選挙でスー・チー氏から公認が得られず不出馬だった。今回は、完全に袂を分かち立ち上げた新党で選挙戦に臨む。目標はずばり「スー・チー政権打倒」だ。

 だが、スー・チー氏にひるむ様子や再考する姿勢は一切見られない。6月に75歳になったばかりの同氏は次の総選挙後を全うすれば、傘寿(80歳)を迎える。ラストチャンスという危機意識が、おそらくそうさせているのだろう。

 国民の英雄アウン・サン将軍の政治利用、少数民族武装勢力との停戦交渉不調、ロヒンギャ問題、アラカン軍問題、そして人権抑圧と強権政治というスー・チー氏自らが招いた5つの課題。これらの問題が続く限り、スー・チー氏の大統領就任が実現することはないであろう。