知的財産権の保護が不十分な中国・深センが
イノベーションが起こせる理由

 梶谷は、前述の整理を踏まえた上で、深センを事例としてそのイノベーションに考察を加えている。深センのイノベーションが「(知的)財産権の保護が不十分な状態の下で生じている」のはなぜか、との問いだ。

 梶谷は、深センには知的財産権の保護について、考え方が異なる企業群が共存している点に注目する。

図表作成 本島一宏
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 第一に、特許に代表される近代的な知的財産権を活用する「モダン層」。世界的な通信機器メーカーであるファーウェイやZTEが該当する。両社は国際特許の出願数で世界一二を争っている。中国メディアの報道によれば、世界的なハイテク企業であるアップルですらも、ファーウェイに特許権料を支払っているという。先進国流の特許ルールに従い、かつ対抗しうる能力を持った企業が該当する。

 第二に、知的財産権をまったく無視する「プレモダン層」だ。山寨携帯を作っていた有象無象の企業群、今でいうならば、深センで次々と登場する無名の新興メーカーが該当するだろう。

 そして、第三に技術を特許で囲い込むのではなく、様々な人が関わることでイノベーションを促進しようとする「ポストモダン層」があると指摘する。このポストモダン層とは、すなわちオープンソースを指すと言ってもいい。

 オープンソースとは、もともとソフトウェア開発から始まったコンセプトで、オープンソースの定義に従って開示されたソースコードは商用、非商用にかかわらず利用、修正、頒布することが許される。ただし、準拠したソースコードを明記することが求められるほか、修正したソースコードもまたオープンソースにすることが条件となる。

 このコンセプトは、ハードウェアにも拡散し、設計情報を完全に開示するオープンソース・ハードウェアへと広がった。中国の発展にオープンソースがもたらした影響は大きい。アンドロイドなどのプログラムを利用する企業が多いばかりではなく、オープンソース・コミュニティに積極的にコミットする企業も現れている。

 モダン層、プレモダン層、ポストモダン層が共存しているのが深センの現状だ、というのが梶谷の指摘だ。これに対し、本書の執筆者でもある高須正和は、三つの層は必ずしも別々のプレイヤーではないと言う。ある企業が状況に応じてモダン、プレモダン、ポストモダンの態度を使い分けていることもあるという指摘だ。中国を代表するテック企業ファーウェイの姿勢が、まさにその使い分けを象徴している。