調達環境を踏まえて「利益か成長か」を見極める
小林:「利益か成長か」を考える際に、もう一点、資金調達等の環境の変化についても意識すべきだと思います。
朝倉:外部環境ですね。
小林:はい。いくらでも資金が得られる状況なのであれば、成長に対する投資を積極的に行ったほうがいいという考えになりやすい。一方で、なかなか資金調達の算段が立たないタイミングにおいては、自社の運転資金でどのように事業を回していくかという考え方がより重視されるでしょう。
つまり、一概に「成長性が重要だ」、あるいは「収益性が重要だ」と決められるものではなく、資金調達等の外部環境や競争環境の変化を意識しながら、利益か成長かのバランスを見極めることが重要なのだと思います。
村上:そうですね。将来的に利益創出できるユニットエコノミクスがすでに成立していて、今がアクセルの踏みどきだというタイミングというのは、往々にして会社独自の財務的な余力はあまりないケースが多いですよね。資金調達が事業の継続成長の前提となっているわけです。
こういう場合を考えると、「利益か成長か」の問いは、先述した4点に加え、調達環境・自社の財務的キャパシティも考慮に入れて検討する問いだということになるでしょう。この時、資金調達環境は自社が許容できるリスクを測る上での尺度となるので、絶対に無視してはいけない要素です。
朝倉:市場に資金が潤沢にあるバブルのタイミングでは、当然、資金が調達しやすい。その機を捉えて、確信犯的に、大きく資金を調達して一気に成長を加速させるのは、一つの考え方だと思います。
例えば、ドットコムバブル当時、ライブドアやサイバーエージェントはその調達環境を最大限活用したという事例もあります。意識してバブルを活用するということは、戦略として否定されるものではないと思います。一方で、自分たちが、あくまでそのような外部環境を前提にしたゲームに参加していることに対しては、自覚的であるべきでしょう。
村上:その通りだと思います。たまたま今は新型コロナウィルスの感染拡大によってマーケットが崩れていますが、今後も何回かマーケットが良いとき、悪いときを繰り返すことを考えると、財務戦略は「利益か成長か」に付随する重要な戦略ファクターだと思います。
朝倉:まとめると、「利益か成長か」という問いに対しては、まず市場や事業の特性を捉え、1.Winner Takes All・勝者独占が可能な産業なのか、2.市場規模・TAMは十分に大きいのか、3.スイッチングコストを高い状態にできているのか、4.成長した先に高い収益性は実現できるのか。これら4つの視点を検討する必要がある、ということ。加えて、外部の資金調達環境に目を向けましょうということですね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/5/24に掲載した内容です。