総予測2020StartUp(1)Photo:mikroman6/gettyimages

ビジョンファンドからヤフーとLINEの経営統合といった日本のテック企業再編から、「○○ペイ」と呼ばれるキャッシュレスサービスの台頭、さらにはグーグルによる量子コンピュータの発表をはじめとしたディープテックの進化まで、2019年もIT・スタートアップを取り巻く環境は大きく変化している。2020年は一体どんなトレンドがやってくるのか。おもに国内で活躍するベンチャーキャピタリスト・エンジェル投資家に聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平)

 本企画では、おもに国内でスタートアップ投資を行うベンチャーキャピタリストをはじめ、週刊ダイヤモンド2019年4月6日号の特集「スタートアップ4.0」の企画にご協力いただいたエンジェル投資家らにアンケートを実施して、その結果をとりまとめた。

 アンケートの内容は「2019年のスタートアップシーンで盛り上がったと感じる領域や、具体的なプロダクトについて教えてください(200文字以内)」「2020年に盛り上がりが予想される領域やプロダクトについて教えてください(600文字以内)」の2点。エンジェル投資家は個人、ベンチャーキャピタルは最大1社2名まで回答可能として、50人から回答を得たものを、回答順にご紹介する(敬称略)。なお、なおキャピタリストは通常、担当領域が決まっている。それぞれの回答が必ずしもそのVC全体を代表する意見ではないことはご了承いただきたい(後半はこちら)。

起業家・エンジェル投資家 有安伸宏

■2019年の振り返り

 Fintech、特に既存金融がカバーしない領域を狙う起業家と多く出会った1年でした。私の投資先の中では「あのファクタリング(≒請求書買取)の会社、いいね」と、会った人によく言われたOLTAが印象的。OLTAは、創業2年で30億円という資金調達力だけでなく、足元の数字も着実に積み上がり、累計申し込み金額は150億円。金融機関やSaaSとの提携戦略を軸として非連続な成長を計画しています。非常に興奮しています。

■2020年のトレンド予測

「一周回って、新しい」と改めて注目される領域がチラホラあると思います(逆にいうと、真新しい領域やバズワードは、そう多くは見いだされないと予想)。ハイプ・サイクルの幻滅期を超えて回復期に入るというセオリーにおいては、メディアで取り上げられない・大衆が飽きているという現象が観察されるのはむしろポジティブ、順当な普及シグナルです。

 例えば、ビットコイン。この文章を書いている時点では、1BTC=約80万円、時価総額は約14.5兆円ですが、そもそも法定通貨の尺度でビットコインの価値をはかることに大きな意味はありません。今は、世界のマネーが14.5兆円程度流入している段階、スタートアップで言えば、PMF(Product Market Fit)は見つかったがスケールする前、シードラウンドの段階だと考えています。重要なのはブロックチェーンかビットコインか、みたいな議論も過去にありましたが、今このタイミングで最高に面白いのは、技術としてのブロックチェーンよりも、アプリケーションとしてのビットコイン。価値貯蔵の手段、そして世界規模の決済ネットワークとして機能するビットコインの、ユースケースの広さと深さに感動しています。どんな政府や企業からも独立して価値を貯蔵(store of value)できることのインパクトは、先進国が保護主義を強めて世界が断片化していきそうな2020年にこそ、再び議論されるのではないでしょうか。

STRIVE General Partner 堤達生

■2019年の振り返り

 今年もあまり大きなトレンドがなかったなと思いますが、あえて挙げるとしたら、いろいろな領域でD2C系企業が出てきたこと。それとマインドフルネス/コーチング系の心の悩みを解決する企業が出てきたなと思います。

 いずれの領域でもまだ大きくブレイクしているサービスはないですが、感情を刺激するものは時代感的にはくると思います。

■2020年のトレンド予測

 投資先でもありますが、ポジウィルなどは、そういった時代感を捉えて急成長していますね。一周回って、ブロックチェーン領域は再度盛り上がりを見せるのではないかと思います。以前の熱狂とその後の失望によって、なんとなくネガティブな空気感が特に投資家サイドにはまだ残っているかもしれませんが、ブロックチェーンを活用したさまざまなサービスが今後出てくると思います。

 分かりやすいところでエンタメ系では、ブロックチェーンゲームが来春以降続々と登場してきますし、大企業でもファンコミュニティの運営にブロックチェーン技術を使ったり、そして本命では、やはり金融サービスでのブロックチェーンの活用が少しずつ出てきたりすると思います。大きなビジネスになるのは今後2〜3年先になると思いますが、来年はそのきっかけの年になるのではないかと思っています。注目している企業としては、LayerXGaudiyですね。

ANRI パートナー 鮫島昌弘

■2019年の振り返り

 2019年10月にGoogleが量子超越を示したことが大きなブレイクスルーでした。我々の生活に量子コンピュータがすぐに役立つ訳ではありませんが、人類にとっては偉大な飛躍であると考えます。まるでアームストロングが初めて月に降り立った時のように。

■2020年のトレンド予測

 トレンドを予想するのではなくVC自らが主導して産業を創出するというスタンスで臨んでいきたいと思います。

・量子ベンチャー 1000社計画
 先日NHKニュースでも話題になりましたが、政府が新国家戦略案として量子ベンチャー10社以上の創出を目指すと発表しました。10社ではまだ足りないと思います。量子コンピュータのみならず、量子暗号・量子通信分野も幅広くカバーして、大企業からのカーブアウト含め、今後は我々VCが起爆剤となり、量子ベンチャー1000社計画を推進していきます。

・地熱発電
 ビルゲイツ率いるBreakthrough EnergyがBaseload Capitalに投資、またGoogleからDandelion Energyがスピンアウトして資金調達するなど、新エネルギー源として地熱発電の可能性を感じています。

・核融合
 国際プロジェクトであるITER計画を中心に、TAE TechnologiesやGeneral Fusion、Common Wealth Fusion Systemsなどのベンチャーが世界では始動しています。日本のエネルギー政策の観点からも、核融合ベンチャーを我々VCが創出すべきではないでしょうか。