「成功する農業経営」の共通項とは?

農業経営について論じられるとき、それぞれのイメージする「理想の農家像」が食い違っているために、議論が深まりにくいように感じられます。生産者当人だけではなく、行政や企業、消費者も含めて、話が散逸してしまっているように思います。それぞれに好き勝手を言っていて、同じ言葉を使っていたとしても、指すものが違っていたりもします。これでは、迷子や脱落者が出るのは無理もありません。

今後存続できる農業経営体の共通項、共通のベストプラクティスを最大公約数的にまとめれば、最低限の必要条件がはっきりします。それは農業特有の条件というわけでもなく、一般的な「仕事ができる人」「経営者」に求められる資質です。

今回の本では、僭越ながらそのような目的で、私が阿部梨園に関わる中で見つけた、農業経営のあるべき姿をまとめました。これらをおさえておくだけでも、時代の変化に適応しながら事業を存続していけるのではないかと考えています。

脱線してから新しく得た「個人のキャリア」の話

私は東京大学を卒業し、大企業に勤めながら、うつ病からの休職、退職、無職を経験し、3年ほど社会から遠ざかった期間があります。まともな人間活動や社会復帰さえ見えませんでした。自分を見失い、自分探しもこじらせました。

しかし現在は、紆余曲折を経てたどり着いた梨園を手伝うことになり、健康を整え、社会復帰を果たし、やりがいある仕事を好きな仲間と続け、自分の能力を存分に発揮し、人に求められ感謝され、社会的に意義のあるプロジェクトに昇華させながら、家族と田舎でのんびり暮らしています。もちろん苦労もありますが、結果的に、一度失ったものを以前の何倍も大きいかたちで取り戻すことになりました。

このような経験を通して、当時の私のように、社会貢献の意思がありながら社会にフィットできず、将来を見失ってしまっている方のための励ましにもなることを願っています。行き当たりばったりですが、この程度の努力でもこれほど面白いことが起こるんだと、元気を出してもらえればと思います。

農家と、その右腕の間で起きた「人間関係」のドラマ

弊園代表の阿部と私は、知り合って以来5年間ずっと、目を逸らすことなく真正面から理想の梨園を目指して邁進してきました。お互いへの敬意を欠かすことなく、破綻させないよう擦り合わせに最大限の注意を払いながら取り組みを続けてきたつもりですが、元々全く違うタイプの人間です。梨園の個性的なメンバーも含めて、数々のドラマがありました。日々押し寄せる悲喜こもごものイベントを、共に喜び、共に泣きながら乗り越えてきました。

阿部梨園に経営改善がもたらされたのは、不器用でも不十分でも、「人対人」の関係に逃げずに向き合ってきたからだと思っています。人間関係に難しさを感じていたり、他人への踏み込み方をいまいち掴めず困っている方の、お役に立てるのではないかと思います。

本書の行間には、阿部側の苦労や気遣いが込められています。そこからも、農家の右腕という私の存在を「受け入れる側」の事情や思いを、読み取ってもらえるはずです。

経営改善の事例集、ノウハウ集

先述のクラウドファンディングによって生まれたウェブサイト「阿部梨園の知恵袋」から、100件を抜粋して本書にまとめました。ランダムに羅列していますが、私たちの実施したことをできるだけ網羅的に復元しました。順番に読んでいただいても、目に留まったものから読んでいただいても結構です。

直接的にお役に立てるものがなかったとしても、私たちの通った道を疑似体験しながら、何かしら、経営改善の目線や原理原則について学んでいただけるのではないかと思います。

本書の特徴は、ストーリー部と実務ノウハウ部が両面Aシングルになっている点です。はじめはどちらかだけの本にしようと考えていたのですが、両方を1冊にまとめました。内容もリンクしていますので、相互に参照しつつ、お好きな方から読み進めてください。